新規事業開発の現場において、最も過小評価されがちなのが「失敗から立ち上がる力」、すなわちレジリエンスです。どれほど優れたアイデアやテクノロジーがあっても、初期仮説の多くは市場で通用せず、試行錯誤の過程で多くの挫折を経験します。世界のデータを見ても、新規事業の成功率は10%未満とされ、日本企業の現場では「千三つ」という言葉がいまだに現実を言い表しています。
しかし、その「失敗の多さ」を嘆くのではなく、そこからいかに学び、再挑戦できるかこそが、これからの新規事業開発を成功に導く決定的な資本となります。AIや地政学リスクの変動が激化するVUCA時代において、過去の成功体験に固執する組織は急速に衰退し、環境変化にしなやかに対応できるレジリエントな人材と組織こそが成長を続けています。
本記事では、心理学・経営学・組織論の最新研究をもとに、「失敗を恐れず、学びへと変える力」を体系的に解き明かします。個人のマインドセットから組織文化、そして実践的な育成手法に至るまで、理論と事例の両面からレジリエンスを磨くための戦略を詳しく紹介していきます。
なぜ今、レジリエンスが新規事業開発の成功を左右するのか

新規事業開発の世界では、成功よりも失敗の方が圧倒的に多いという現実を無視することはできません。パーソル総合研究所の調査によると、自社の新規事業が「成功している」と回答した担当者はわずか30.6%。
さらに、リクルートの新規事業提案制度「Ring」では、応募されたアイデアのうち実際に事業化に至るのは2%、黒字化に成功するのはその15%にすぎません。つまり、1,000件のうち3件しか黒字化しないという厳しい現実が浮き彫りになっています。
このような不確実性が高い環境では、論理的な戦略設計や技術力だけでは生き残れません。重要なのは、失敗から学び、再挑戦し続ける力=レジリエンス(回復力・しなやかさ)です。ハーバード・ビジネス・スクールの研究では、長期的に成功を収める企業ほど、危機や失敗を機会に変える「組織的レジリエンス」を持っていることが明らかにされています。
また、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代においては、過去の成功パターンは通用しません。AIの進化、地政学リスクの増大、パンデミックなど、あらゆる要素が企業の前提条件を揺るがしています。従来の「計画的成功」から、「変化に対応しながら進化し続ける」モデルへの転換が求められているのです。
世界経済フォーラム(ダボス会議)では、日本の経済競争力を阻む要因として「組織のレジリエンス不足」が指摘されています。特に日本企業は、減点主義や完璧主義といった文化的要因により、失敗を恐れる傾向が強いとされています。これが、新しい挑戦を抑制し、結果としてイノベーション創出を遅らせる大きな要因になっているのです。
これからの時代、最も強いのは「失敗しない企業」ではなく、「失敗しても立ち上がる企業」です。レジリエンスはもはや精神論ではなく、経営資本としての価値を持つスキルであり、人材育成や組織設計の中心に据えるべき戦略的テーマになっています。
レジリエンスを持つ人材は、環境変化に柔軟に対応し、挫折を糧に進化します。その結果、同じ失敗を繰り返さず、次の挑戦にスピーディーに踏み出せる。新規事業開発の成功とは、まさにこの「学習と回復のサイクル」をどれだけ短く回せるかにかかっているのです。
新規事業における失敗の必然性と日本企業の構造的課題
新規事業開発において失敗は例外ではなく、むしろ前提条件です。ある調査では、新規事業の成功確率はわずか7~10%。さらに、ベンチャー企業に限定すると10年後の生存率は6.3%というデータも報告されています。つまり、10社中9社以上が途中で撤退や方向転換を余儀なくされているのが現実です。
この「失敗の多さ」には、日本特有の構造的要因が深く関わっています。
| 障壁の種類 | 内容 | 組織への影響 |
|---|---|---|
| イノベーションのジレンマ | 既存顧客の要望を優先し、新しい市場への投資が遅れる | 破壊的イノベーションの機会を逃す |
| 減点主義の文化 | 挑戦よりも失敗を恐れる傾向 | リスク回避行動の常態化 |
| 完璧主義 | 「失敗のない計画」を求める | スピードと実験の欠如 |
| 両利き経営の困難 | 既存事業の「深化」と新事業の「探索」の両立が難しい | 持続的な成長の阻害 |
ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授が提唱した「イノベーションのジレンマ」によれば、優良企業ほど既存顧客の声を重視し、結果として市場変化に乗り遅れる傾向があるとされています。コダックがデジタル化の波に対応できず没落したように、日本の大企業も同じ罠に陥りやすいのです。
さらに、早稲田大学の入山章栄教授は、日本の経営層の短期任期や損失回避志向が「探索的イノベーション」を阻んでいると指摘しています。短期的な利益を重視するあまり、長期的な学習や実験への投資を避けてしまう構造が根強く存在しています。
加えて、「失敗を許さない文化」が挑戦意欲を削いでいます。減点主義の職場では、失敗がキャリアリスクと直結し、社員は無難な選択をするようになります。結果として、誰もリスクを取らなくなり、イノベーションは生まれません。この風土は、心理的安全性を欠いた組織の典型例であり、社員の創造性を奪う要因にもなっています。
一方で、海外では「Fail Fast, Learn Faster(早く失敗し、早く学べ)」という文化が根付いています。シリコンバレーでは、失敗を経験した起業家の方が投資家から信頼されるほどです。失敗は恥ではなく、「知識を得るプロセス」として評価されるのです。
つまり、日本の新規事業開発における最大の課題は、技術力や市場ではなく、「失敗をどう扱うか」という文化の問題です。これを克服するためには、レジリエンスを組織と個人の両面で高め、失敗を「終わり」ではなく「学びの起点」として捉えるマインドセットの転換が必要不可欠です。
「レジリエンス人材」とは何か:失敗を成長に変える心理的資本

新規事業の現場では、失敗の多さが成功の裏返しであることは周知の事実です。しかし、同じ失敗をしても立ち上がる人と、立ち直れずに終わる人の違いはどこにあるのでしょうか。その答えが「レジリエンス(Resilience)」です。
レジリエンスとは、困難や逆境に直面したときに、折れることなく回復し、むしろその経験を糧にして成長していく力を指します。心理学的には「精神的回復力」と定義され、ビジネスの文脈では「変化と不確実性を乗り越える力」として注目されています。
アメリカ心理学会(APA)はレジリエンスを「ストレスや逆境から立ち直り、以前よりも強くなる能力」と定義しています。この概念は近年、企業経営の分野でも急速に広まりつつあります。なぜなら、VUCAの時代においては、予期せぬ変化や失敗を完全に避けることが不可能だからです。むしろ、どれだけ早く立ち直り、学びに変えられるかが競争優位の源泉となっています。
研究によれば、レジリエンスの高い人材には共通する6つの特性があります。
| 要素 | 説明 | 行動の特徴 |
|---|---|---|
| 自己認識 | 自分の感情や思考を客観的に理解する力 | 感情に流されず冷静に状況を分析する |
| 感情コントロール | ネガティブ感情を建設的に扱う力 | 怒りや不安を抑え、前向きな行動に変える |
| 現実的楽観性 | コントロールできる部分に集中する姿勢 | 問題を客観的に分解し、行動計画を立てる |
| 自己効力感 | 「自分ならできる」と信じる力 | 高い目標にも積極的に挑戦し続ける |
| 精神的柔軟性 | 固定観念にとらわれない思考 | 失敗をきっかけに戦略や方法を柔軟に変える |
| 人間関係構築力 | 支え合える関係を築く力 | 周囲に助けを求め、協力を引き出す |
これらの特性を総合的に備えた人材は、失敗を「終わり」ではなく「進化の通過点」と捉えます。実際、スタンフォード大学の研究では、レジリエンスの高いチームはそうでないチームに比べて25%以上高いイノベーション成果を出すという結果が示されています。
重要なのは、レジリエンスが先天的な資質ではなく、後天的に育てられるスキルであることです。心理学者のカレン・ライバーグは「レジリエンスは筋肉と同じ。使うほど鍛えられる」と述べています。小さな失敗を恐れずに挑戦し続けることが、レジリエントな人材への最短ルートなのです。
新規事業開発の世界で成果を出すためには、スキルや知識以上に、「再び立ち上がる力」が求められます。つまり、レジリエンスこそが、次世代のビジネスリーダーに欠かせない心理的資本なのです。
GRITとグロースマインドセットが支えるレジリエンスのメカニズム
レジリエンスを発揮し続ける人には、共通して「GRIT」と「グロースマインドセット」という心理的特性があります。これらは単独でも強力ですが、組み合わさることでレジリエンスを支える「内なるエンジン」として機能します。
まず、GRITとはペンシルバニア大学の心理学者アンジェラ・ダックワースが提唱した概念で、「情熱(Passion)」と「粘り強さ(Perseverance)」の2要素から構成されます。彼女の研究によると、成功において最も重要なのは才能ではなく、やり抜く力です。新規事業のように長期的な挑戦が求められる分野では、このGRITが極めて重要です。短期的な結果に左右されず、目標に対して情熱を持ち続ける人こそが、最終的な成功をつかむのです。
次に、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱した「グロースマインドセット」は、「能力は努力で伸ばせる」という信念を指します。対照的な概念である「フィクスドマインドセット(能力は生まれつき固定されている)」の人は、失敗を恐れ挑戦を避ける傾向があります。一方、グロースマインドセットを持つ人は、失敗を「学習のチャンス」と捉え、改善と成長を繰り返します。
両者の関係を整理すると、以下のようになります。
| 概念 | 特徴 | レジリエンスとの関係 |
|---|---|---|
| GRIT | 長期的目標に向かう粘り強さと情熱 | 挫折しても再挑戦を続ける「原動力」 |
| グロースマインドセット | 能力は努力で伸ばせるという信念 | 失敗を恐れず挑戦する「思考の土台」 |
この2つの特性は、レジリエンスを支える心理的構造の両輪です。グロースマインドセットが「挑戦する許可」を与え、自己効力感が「自分ならできる」という確信を生み、GRITが「続ける力」としてそれを支えます。心理学的には、この3つが相互作用することで「逆境からの学習ループ」が形成されるとされています。
さらに、ハーバード・ビジネス・レビューの調査によると、グロースマインドセット文化を持つ企業では、従業員のエンゲージメントが47%高く、イノベーション提案数は2倍に増加することが報告されています。これは、個人の信念が組織の活力にも直結することを意味します。
レジリエンスを強化したいなら、まず「失敗を恐れず挑戦する心」を育てることが第一歩です。そして、挑戦を続ける中で得られる小さな成功が、やり抜く力(GRIT)を強化し、次の挑戦への燃料になります。挑戦・失敗・学習・再挑戦のサイクルこそが、レジリエンスの実践そのものなのです。
組織文化の壁を越える:「減点主義」から「挑戦主義」への転換

新規事業が日本企業で育ちにくい最大の理由の一つが、組織文化に根付く「減点主義」です。減点主義とは、失敗やミスを減点対象とみなし、挑戦よりも「失敗しないこと」を評価する風土を指します。この文化が強い企業では、社員がリスクを避け、現状維持を選ぶ傾向が強まります。結果として、イノベーションを阻む「静かな停滞」が生まれるのです。
ハーバード・ビジネス・レビューの分析によると、日本企業の管理職の60%以上が「部下の失敗は組織に悪影響を与える」と回答しています。一方、米国の同調査では「失敗は成長の一部である」と答えた割合が70%を超えています。この意識の差が、挑戦の質と量の差につながっています。
新規事業では、正解が存在しない状況下で仮説を立て、検証を繰り返すことが前提です。したがって、「失敗=悪」という価値観を改めない限り、挑戦する人材は育ちません。組織全体で「挑戦を評価する文化」へ転換することが必要です。
挑戦主義への転換を進める上で、成功企業が実践しているのが「学習する組織」の構築です。MITスローン経営大学院のピーター・センゲ教授は、「組織が学習するとは、失敗を分析し、知識として再利用できる仕組みを持つこと」と定義しています。例えば、トヨタ自動車では「なぜを5回繰り返す」文化が根付いており、失敗の責任を個人に追及せず、原因を組織で共有し再発防止につなげています。
また、リクルートでは「Ring」制度を通じ、失敗したプロジェクトでも得られた知見を「失敗アーカイブ」として全社共有しています。挑戦の過程で得た学びを資産化することで、挑戦が組織の知に変わるのです。
挑戦主義文化を根付かせるためのポイントは次の3つです。
- 評価基準を「結果」から「挑戦の質」へ変える
- 失敗を共有・分析する仕組みを制度化する
- 上司が率先して失敗を語り、挑戦を称賛する
特に、上司が自らの失敗談を共有することは心理的安全性を高めるうえで効果的です。Googleの研究でも、心理的安全性の高いチームはそうでないチームに比べて業績が2倍高いことが確認されています。
挑戦主義への文化転換は、一朝一夕では実現しません。しかし、小さな挑戦を称賛する文化が積み重なった先に、大きなイノベーションが生まれるのです。
レジリエントな組織をつくる心理的安全性とサーヴァント・リーダーシップ
レジリエンス人材が育つ環境には、共通して「心理的安全性」と「サーヴァント・リーダーシップ」という2つの要素があります。どちらも、失敗を恐れずに意見や行動ができる環境を整えるために欠かせません。
心理的安全性とは、スタンフォード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、「このチームでは自分の意見を自由に発言しても罰せられない」という信頼感を意味します。Googleが社内プロジェクト「プロジェクト・アリストテレス」で1万件以上のデータを分析した結果、チームの生産性を最も高める要因が「心理的安全性」であることが明らかになりました。
心理的安全性が高い職場では、メンバーが自ら課題を提起し、新しいアイデアを提案します。逆に、安全性が低い職場では、社員が上司の顔色をうかがい、消極的になります。つまり、心理的安全性はレジリエンスの土台であり、挑戦と学習の循環を生み出す鍵なのです。
では、どうすれば心理的安全性を高められるのでしょうか。その中心にあるのが「サーヴァント・リーダーシップ」です。サーヴァント・リーダーとは、「支配するリーダー」ではなく、「支援するリーダー」を指します。部下を導くのではなく、部下の成長と挑戦を後押しする姿勢を持つリーダーです。
| リーダーシップの型 | 特徴 | 組織への影響 |
|---|---|---|
| トップダウン型 | 指示・管理中心。失敗を許容しにくい | 短期成果は出るが挑戦が減る |
| サーヴァント型 | 共感・支援中心。信頼関係を重視 | 学習意欲と創造性が向上する |
経営心理学者のロバート・グリーンリーフによれば、サーヴァント・リーダーの本質は「人の成長を通じて成果を出す」ことにあります。これを新規事業開発に当てはめると、上司が失敗を責めず、部下の挑戦を支えることで、自然とチームの回復力が高まります。つまり、レジリエントな組織とは、上司の支援力によって生まれるものなのです。
さらに、パナソニックやユニリーバなどでは、サーヴァント・リーダーシップ研修を通じて管理職のマインド改革を進めています。これにより、社員のエンゲージメントが向上し、新規事業提案数が増加した事例も報告されています。
心理的安全性とサーヴァント・リーダーシップの両立は、新規事業の現場における「安心して挑戦できる空気」を生み出します。そして、この環境こそが、失敗を恐れずに挑戦し続けるレジリエンス人材を育て、変化に強い組織をつくる最大の原動力となるのです。
日本企業の実例:富士フイルム、ミクシィ、ソニーに学ぶ再生の戦略
レジリエンスの本質は、失敗や危機を「終わり」ではなく「再生の契機」として捉えることです。日本企業の中にも、この力を発揮して見事に変革を遂げた例が数多くあります。その代表格が、富士フイルム、ミクシィ、そしてソニーです。それぞれが困難に直面しながらも、事業構造を転換し、再び成長軌道に乗せた点に共通するのは、「しなやかに変化し続けるレジリエンス経営」です。
富士フイルム:構造転換の象徴となった「選択と集中」
富士フイルムは、写真フィルムの需要がデジタル化によって激減した際、業界全体が縮小する中で唯一生き残った企業です。2000年初頭、主力のフィルム事業がピーク時の10分の1にまで落ち込むという危機に直面しました。しかし、同社はその危機を「変革のチャンス」と捉えました。
彼らは、長年培った化学技術を活かし、医薬品・化粧品・医療機器へと事業領域を大胆にシフト。特に「再生医療」や「医療画像診断」などの新分野で成功を収めました。結果として、現在ではフィルム時代を超える売上高を達成し、「レジリエンス経営の象徴」として世界的に注目されています。既存技術を異分野に応用する「動的転用力」こそ、富士フイルムのレジリエンスの核心といえます。
ミクシィ:一度の栄光に固執しなかった“再挑戦型”経営
SNS「mixi」で一世を風靡したミクシィは、FacebookやTwitterの台頭により急速に衰退しました。しかし同社は、その失敗を冷静に受け止め、「事業の定義をSNSではなく“コミュニケーションの場の提供”」と再定義しました。この発想の転換が、スマホゲーム『モンスターストライク』の誕生につながります。
「SNSからゲームへ」という転身は大胆でしたが、挑戦と検証を繰り返す文化が根づいていたからこそ可能でした。社内では「失敗を記録し、次の企画に活かす“学習のループ”」を制度化。これがレジリエントな企業文化を支え、結果的にV字回復を実現しました。
ソニー:失敗を恐れず「原点」に立ち返る変革
ソニーは2000年代にかけて低迷しましたが、近年はエンタメ・ゲーム・半導体で再び世界的地位を確立しています。再生のきっかけとなったのは、「失敗を恐れない開発文化の復活」です。元CEO平井一夫氏は、社内に眠る創造性を引き出すために、過度な管理主義を撤廃し、挑戦を奨励する文化に舵を切りました。
その象徴が、PS5やイメージセンサー事業などに代表される「未来志向の再投資」です。ソニーのレジリエンスは、「危機の中で原点に戻り、自社の強みを再発見する力」にあります。
これらの3社に共通するのは、単に生き残るためではなく、「変わる勇気」と「学ぶ文化」を組織全体で共有している点です。レジリエンスは経営の一部ではなく、企業DNAそのものとして根付いているのです。
レジリエンスを鍛える実践ツールキット:個人と組織の成長を支える方法
レジリエンスは特別な才能ではなく、鍛えることができるスキルです。心理学や組織開発の研究では、個人と組織の双方でレジリエンスを高める具体的な方法が明らかになっています。ここでは、実務で活用できる「レジリエンス向上ツールキット」を紹介します。
個人レベル:メンタル・マインド・行動を整える
個人がレジリエンスを高めるには、次の3領域にアプローチすることが効果的です。
| 領域 | アプローチ例 | 目的 |
|---|---|---|
| メンタル | ジャーナリング(1日3行の気づきを書く) | 感情の整理と自己認識の向上 |
| マインド | 「失敗を学びに変えるリフレーミング」 | 否定的感情を前向きな行動に変える |
| 行動 | スモールチャレンジ法(小さな挑戦を積み重ねる) | 自己効力感の強化 |
スタンフォード大学の研究によると、リフレーミングを実践することでストレス耐性が40%以上向上し、挑戦への恐怖が減少することが示されています。また、日々の小さな成功体験を積み重ねることで、自己効力感が育まれ、長期的な挑戦にも粘り強く取り組めるようになります。
組織レベル:心理的安全性と「学びの循環」を制度化する
組織のレジリエンスを高めるには、失敗を共有し、学びに変える仕組みづくりが欠かせません。効果的な方法として、次の3つが挙げられます。
- リフレクション・ミーティング:プロジェクト終了時に成功・失敗・学びを共有
- ピア・サポート制度:社員同士が励まし合い、挑戦を支える関係を構築
- マイクロ・イノベーション制度:小規模でも自由に提案・実験できる制度を整備
特に、「学習する組織」を提唱したピーター・センゲ教授は、「個人の学びが共有され、組織知となったときに真の変革が起こる」と述べています。つまり、個々の経験を組織全体で循環させることが、持続的成長の鍵なのです。
さらに、Googleが導入している「失敗カンファレンス」では、社員が失敗談を発表し合うことで、心理的安全性を高め、挑戦を称える文化を形成しています。こうした取り組みは、新規事業の現場にも応用できます。
レジリエンス向上の最終目的
レジリエンスを鍛える目的は、単に「ストレスに強くなること」ではありません。真の目的は、変化を楽しみ、自ら進化できる人と組織をつくることにあります。変化が常態化する時代において、レジリエンスは経営資本であり、個人のキャリア形成にも直結するスキルです。
新規事業開発の成功確率を高めるのは、優れた戦略や技術ではなく、「何度でも立ち上がるチーム」です。レジリエンスを意識的に育てることで、組織はしなやかに変化を受け入れ、どんな不確実性にも対応できる未来志向の企業へと進化していくのです。
