企業の成長戦略は、営業力や製品力といった従来の軸だけでは語れなくなっています。いま注目を集めているのが「コミュニティ主導成長(Community-Led Growth、CLG)」です。これは単なるマーケティング手法ではなく、ユーザーや顧客、熱心な支持者から成るコミュニティを成長エンジンそのものとして位置づける包括的なアプローチです。

CLGは、ピアツーピアの学びや共有、信頼できる口コミを通じて購買意思決定を支え、企業の持続的成長を可能にします。日本においても、サイボウズの「kintoneコミュニティ」やカゴメの「&KAGOME」、さらにはnoteのクリエイター基盤など、CLGを活かした事例が生まれています。

背景には、広告への不信感やCookie廃止によるデータ環境の変化、さらには人々が本能的に求める「つながり」への欲求があります。コミュニティは、単なる販売チャネルを超えて、防御可能な競争優位を築き、企業文化そのものを変革する力を持ちます。今後、成長モデルの新たな主流となるCLGの本質を、具体的事例とデータをもとに解き明かしていきます。

コミュニティ主導成長(CLG)とは何か

コミュニティ主導成長(Community-Led Growth、以下CLG)は、従来の営業や広告を中心とした成長戦略とは一線を画すアプローチです。ユーザーや顧客、そして熱心な支持者から成るコミュニティを企業の中核に据え、彼らの活動が事業成長の推進力となる点に特徴があります。

従来のモデルでは、企業は「顧客に商品やサービスを届ける側」であり、顧客は「受け手」として位置づけられてきました。しかしCLGでは、顧客は単なる消費者ではなく、互いに知識や経験を共有する「メンバー」であり、価値を共に創造する存在とみなされます。この構造の違いが、持続的な成長を生み出す源泉となります。

CLGの中核となる特徴

  • メンバー同士の交流や学び合いを企業が積極的に支援する
  • 情報共有と相互サポートが購買意思決定を後押しする
  • 帰属意識や共通の目的が強いブランドロイヤルティを形成する

近年の調査では、消費者の89%が企業の広告よりも仲間からの推薦を信頼しているというデータが示されています(Nielsen調査)。この背景には、広告への懐疑や情報過多の時代において、人々が「信頼できる人の声」に価値を置く傾向が強まっていることがあります。

また、サードパーティCookieの廃止によって、企業はファーストパーティデータの獲得が課題となっています。その際、コミュニティを介してユーザーから自発的に得られるフィードバックやインサイトは、倫理的で信頼性の高い情報源として大きな意味を持ちます。

CLGの本質は、顧客をパートナーとして迎え入れ、共に価値を創り上げる点にあります。そのため、単なるマーケティング施策ではなく、経営戦略全体に組み込むべき枠組みとして位置づけられているのです。

伝統的モデルを超える「コミュニティ・フライホイール」

CLGの最大の特徴は、直線的なセールスファネルを超えた「コミュニティ・フライホイール」という成長メカニズムにあります。従来のセールスファネルは「認知→興味→購入」という流れで終点が購入に設定されていました。しかし購入後の顧客接点は弱く、継続的な関係構築には限界がありました。

一方で、コミュニティ・フライホイールは、顧客が製品利用を通じて価値を得た瞬間から新たな循環が始まります。満足した顧客は支持者となり、その体験を共有します。これが口コミや成功事例として次の顧客を惹きつけ、さらに新たな参加者を増やしていくのです。

フライホイールの循環プロセス

  1. 新規メンバーが参加し、他のメンバーと交流する
  2. 課題解決やノウハウ共有を通じて価値を獲得する
  3. 成功体験が満足感を生み、支持者へと変化する
  4. 支持者の発信が新たなメンバーを呼び込み、成長が加速する

このサイクルは自己増殖的であり、「複利効果」によって成長スピードが加速することが大きな強みです。

実例として、フィットネス企業のPelotonは製品そのものよりも、ユーザー同士が交流するオンラインコミュニティに競争力の源泉があります。トレーニングの達成感をシェアする仕組みが、新規会員の参加意欲を刺激し、結果として継続率やロイヤルティの向上につながっています。

さらに、このフライホイールは製品開発にも寄与します。コミュニティ内で共有される課題や改善要望は、企業にとって貴重なフィードバックとなり、製品改良のスピードと的確さを高める役割を果たします。

セールスファネルが「終点」を意識するのに対し、コミュニティ・フライホイールは「循環」を意識するモデルです。企業と顧客が共に歩むこの構造こそが、持続的成長を可能にする鍵となります。

消費者行動とテクノロジー変化が生む必然性

コミュニティ主導成長(CLG)が注目を集める背景には、消費者行動の変化とテクノロジーの進展があります。従来、企業のメッセージは一方通行で受け入れられてきました。しかし現在、消費者は情報過多の環境に置かれ、広告や宣伝に対して懐疑的になっています。その結果、信頼の基盤は「企業発の情報」から「仲間や同業者の声」へと移行しているのです。

ある調査では、消費者の89%が有料広告よりも知人や仲間からの推薦を信頼すると回答しています(Nielsen調査)。この数字は、企業がいくら広告費を投じても、消費者の最終判断における決定的要因は「人と人のつながり」にあることを示しています。

広告疲れと信頼のシフト

  • Z世代を中心に、広告を避ける傾向が顕著に強まっている
  • 友人やコミュニティからの推薦は広告よりも高い影響力を持つ
  • 企業メッセージに代わり、ユーザー同士の会話が意思決定を後押しする

さらに、テクノロジーの変化もCLGを必然化しています。プライバシー保護の観点からサードパーティCookieが廃止される流れの中で、企業は従来のように外部データに依存できなくなりました。代わって必要となるのは、顧客と直接つながり、自らのプラットフォーム上で信頼に基づいたファーストパーティデータを得る仕組みです。コミュニティはその解決策となり、消費者との倫理的な関係構築を可能にします。

また、情報過多による「意思決定疲れ」も重要な要素です。特にSaaSなど選択肢が無数にある市場では、消費者は自分に最適なサービスを見極めることに困難を感じています。その際に頼りにするのは、同じ課題を持つ仲間の経験や成功事例です。コミュニティは「集合知」による意思決定の場となり、購入行動を支える新しい基盤となっているのです。

こうした背景を踏まえると、CLGは一時的な流行ではなく、消費者行動と技術変化の両面から生じた「必然の戦略」であると位置づけられます。

CLGが築く模倣困難な競争優位

市場競争が激化する中で、企業が直面する最大の課題は「持続的な競争優位の確立」です。価格や機能は短期間で模倣されやすく、差別化要素としての寿命は限られています。こうした環境下で、CLGが生み出すのは他社が容易に模倣できない「堀(Moat)」です。

活発で忠誠心の高いコミュニティは、時間と真摯な関わりによってしか形成できません。例えば、フィットネス企業Pelotonはハードウェアだけでなく、ユーザー同士の強力なコミュニティこそが競争力の源泉とされています。コミュニティが存在することで顧客の継続率が高まり、さらに新規顧客を引き寄せる磁力となっているのです。

CLGが築く競争優位の要素

  • 模倣困難なブランドロイヤルティ
  • 既存顧客の離反防止と高い定着率
  • 支持者の口コミによる自然な新規顧客獲得
  • 製品改善につながる有機的なフィードバック

また、CLGは「自己増殖する成長エンジン」としての側面も持ちます。成熟したコミュニティは既存メンバーを維持しながら、新規メンバーを自然に惹きつけます。この結果、転換率は高く、獲得コストを抑えつつ収益性を高める効果があります。

加えて、企業はCLGによってプラットフォーム依存の広告費から脱却できます。従来の広告モデルはGoogleやMetaといった外部プラットフォームに依存し、コスト変動や規制変更のリスクを抱えていました。しかし、コミュニティは企業が「所有」できる資産であり、長期的に安定した成長基盤となるのです。

このように、CLGは短期的なマーケティング施策ではなく、企業文化と顧客関係を再構築する戦略的投資です。他社が簡単に真似できない「つながりの資産」を育てることこそが、持続的な優位性を築く最も確実な方法といえます。

成長モデル比較:SLG・PLG・CLGの位置づけ

現代のビジネスにおいて、企業の成長モデルは大きく三つに分類されます。営業担当者による直接提案を基盤とする「セールス主導成長(Sales-Led Growth、SLG)」、製品体験そのものを推進力とする「プロダクト主導成長(Product-Led Growth、PLG)」、そしてコミュニティの力を成長の中心に据える「コミュニティ主導成長(Community-Led Growth、CLG)」です。

この三つのモデルは競合関係にあるわけではなく、それぞれが異なる顧客層や市場環境に適しています。SLGは複雑かつ高額なエンタープライズ向けソフトウェアに強みを発揮し、PLGはSlackやZoomのように個人や中小企業でも簡単に導入できるツールで力を持ちます。CLGはNotionやFigmaに代表されるように、ユーザー同士の共創やネットワーク効果が価値の源泉となるサービスに最適です。

成長モデルの比較(要点)

特徴SLGPLGCLG
主な成長ドライバー営業チームの直接活動製品体験と利便性コミュニティの支持と口コミ
ターゲット顧客大企業(エンタープライズ)SMB・エンドユーザー共通目的を持つユーザー群
セールスプロセス個別提案・長期的関係セルフサービス・フリーミアムピアツーピアの課題解決
KPI契約金額・受注数PQL・コンバージョン率コミュニティ起因収益・維持率
提供価値カスタマイズ提案迅速な価値実現帰属意識・知識共有

それぞれのモデルは長所と短所を持ちます。SLGは成約金額が大きい一方で、営業リソースに依存するためスケーラビリティに欠けます。PLGは低コストで急速な拡大が可能ですが、ユーザー定着が弱ければ離脱率が高まります。CLGは時間をかけて構築される分、短期的な成果は見えにくいですが、一度確立すれば強固で持続的な成長基盤となるのが特徴です。

企業は自社の市場環境と製品特性を見極め、これら三つのモデルを適切に組み合わせる必要があります。その際、CLGは単なる補完要素ではなく、長期的な顧客関係を築くための「基盤戦略」として活用され始めています。

PLGとの融合が生むシナジー効果

プロダクト主導成長(PLG)とコミュニティ主導成長(CLG)は、対立する概念ではなく補完関係にあります。PLGが「製品体験」を起点とするのに対し、CLGは「顧客の関係性」を起点とします。両者を組み合わせることで、顧客獲得から定着、さらには支持者化までを滑らかにつなぐ成長エンジンを構築できます。

PLGとCLGの相互補完

  • オンボーディング支援:セルフサービス型のPLGでは初心者がつまずきやすいが、コミュニティが存在すれば経験者が自然にサポートする。
  • 有機的なフィードバックループ:コミュニティ内の会話から製品改善のヒントが日常的に集まり、開発サイクルを加速させる。
  • 高度な活用事例の共有:ユーザーが独自のテンプレートや事例を公開し、他のユーザーの製品利用を深化させる。
  • 支持者の育成:製品満足度が高いユーザーは、コミュニティによって「アドボケイト」や「エバンジェリスト」となり、自然な宣伝者として活動する。

実際に、Notionではユーザーが作成したテンプレートの共有がコミュニティを通じて広がり、製品利用の深度を高めています。Figmaではユーザーが自作のプラグインを公開することで、企業が提供する以上のスピードで機能が拡張されています。これらの事例は、PLGのスケーラビリティとCLGの持続性が融合したとき、爆発的な成長が実現することを示しています。

この組み合わせは単なる営業・マーケティング手法にとどまらず、企業の組織文化にも影響します。営業、開発、カスタマーサクセスといった部門が顧客コミュニティを軸に連携することで、全社的に顧客中心の経営が推進されるのです。

PLGが提供する「プロダクト体験」と、CLGが育む「人と人のつながり」。この両輪を同時に回すことこそが、これからの企業に求められる最も強力な成長戦略となります。

成功に不可欠なコミュニティマネージャーの役割

コミュニティ主導成長(CLG)の成否を大きく左右するのが、コミュニティマネージャーの存在です。彼らは単なるフォーラムの管理者ではなく、企業と顧客を結びつけ、コミュニティを戦略的に育て上げる「ハブ」の役割を担います。

近年の調査によれば、世界のコミュニティ専門家の約70%が「自社のコミュニティが事業目標の達成に直接寄与している」と回答しています(CMX 2023年レポート)。その背後には、コミュニティマネージャーが果たす多面的な役割が存在します。

コミュニティマネージャーの中核的役割

  • 戦略立案者:コミュニティの目的を明確化し、成長計画を策定する
  • モデレーター:健全で安全な環境を維持し、建設的な議論を促す
  • コンテンツクリエイター:イベントや記事を企画し、継続的な学びを提供する
  • データアナリスト:エンゲージメント指標を可視化し、経営層に価値を証明する

特に重要なのは、コミュニティ内の会話から事業に資するインサイトを抽出する力です。ユーザーが日常的に交わすフィードバックや要望は、製品開発やマーケティングに直結する宝の山であり、これを組織に還元できるかどうかが成果を分けます。

さらに、マネージャーには「共感力」や「傾聴力」といったソフトスキルも欠かせません。人と人をつなぎ、信頼関係を築くことがコミュニティの土台だからです。企業の役割が「管理者」から「ファシリテーター」へと変化する中で、マネージャーは庭師のように環境を整え、自然な対話と成長を促す存在となります。

成功するコミュニティは偶然ではなく、専門的スキルを持つマネージャーの戦略的努力の積み重ねによって築かれるのです。

グローバル事例に学ぶCLGの実践知(Notion・Figma・Salesforce)

CLGの理念を実践し、顧客基盤を飛躍的に拡大した企業の事例は数多く存在します。その中でもNotion、Figma、Salesforceの3社は代表的な成功例として注目されています。

Notion:共同創造を促すテンプレート文化

ノートアプリNotionは、ユーザーが自ら作成したテンプレートを共有する仕組みを構築しました。数千に及ぶテンプレートが集まる「コミュニティギャラリー」は、新規ユーザーにとっての学習資源であると同時に、熟練ユーザーにとっては成果を披露する場となっています。

さらに、分散型アンバサダープログラムにより、世界中で自発的なミートアップが開催され、ユーザーがブランドの成長を支える仕組みが自然に生まれました。

Figma:プロダクトと一体化したコミュニティ

デザインツールFigmaは、アプリ内に「Figma Community」というハブを設け、ユーザー同士がプラグインやデザインファイルを自由に共有できる仕組みを整えました。結果として、製品機能はクラウドソース的に拡張され、公式の開発力を超えるスピードで進化しました。

Friends of Figmaと呼ばれる地域グループは、教育とネットワーク効果を生み、Figmaを単なるツールから「共創の場」へと変えました。

Salesforce:Trailblazer Communityが築くエコシステム

Salesforceは、BtoB領域におけるCLGの最も成熟した事例といえます。無料学習プラットフォーム「Trailhead」と連動したTrailblazer Communityは、キャリア形成の場としても機能しています。1300以上のグループが世界各国で活動し、メンバーの80%が「業務効率やコスト削減に貢献した」と回答しています。

コミュニティが企業の製品価値を拡張し、ユーザーのキャリア成長までも支える仕組みは、他社が容易に模倣できない強力な競争優位を築いています。

これらの事例に共通するのは、コミュニティを単なる周辺施策ではなく、製品やビジネスモデルそのものに組み込んでいる点です。つまり、CLGはマーケティング戦術ではなく、経営戦略として全社的に位置づけられるべきだと示しています。

日本におけるCLG適用──サイボウズ、カゴメ、noteの挑戦

海外発の成功事例が目立つCLGですが、日本でも独自の文化や市場に適応した取り組みが進んでいます。サイボウズ、カゴメ、noteの3社は、その先駆的な実践例として注目に値します。

サイボウズ:ユーザー同士が育むBtoBコミュニティ

サイボウズは業務改善プラットフォーム「kintone」を軸に、ユーザー主体のエコシステムを形成しています。公式オンラインフォーラム「キンコミ」では、ユーザー同士が課題やノウハウを共有し合い、運営側はあくまでサポート役に徹しています。さらに「kintone Café」と呼ばれる草の根勉強会が全国各地で開催され、顧客同士のネットワークがサービス定着の推進力となっているのです。

カゴメ:ファンとの共創でブランド価値を深化

食品メーカーのカゴメは、コアなファンとの関係を重視し、公式コミュニティ「&KAGOME」を立ち上げました。ここでは、ファンが自作のレシピを共有し、新商品のアイデアを提案するなど、双方向の関わりが促進されています。調査によれば、会員は非会員の2倍の製品を購入しており、ファンとの共創が売上に直結していることが明らかになっています。

note:クリエイターが主役のコミュニティ基盤

クリエイタープラットフォームnoteは、個々のクリエイターがサークル機能を活用して有料コミュニティを形成できる仕組みを提供しています。これにより、ファンは単なる読者にとどまらず、クリエイターと共に作品や活動を支える存在となります。マガジンやコメント機能による対話が広がり、プラットフォーム全体が無数のコミュニティの集合体となっているのです。

日本の事例に共通する特徴は、オンラインとオフラインを融合させた「場づくり」の重視です。特にkintone Caféのように、対面の交流がブランドへの信頼を補完している点は、日本市場特有の強みといえるでしょう。

成果の測定とROI:エンゲージメントを超えて

CLGを推進する上で最大の課題の一つが、「成果をどのように測定するか」です。エンゲージメントという抽象的な指標だけでは、経営層を納得させることはできません。そこで求められるのが、コミュニティ活動を売上や利益といった具体的な事業成果に結びつける枠組みです。

二元的KPIアプローチ

CLGの評価は大きく二つの側面から測定されます。

観点具体例
コミュニティ健全性指標アクティブメンバー数、投稿数、返信率、ユーザー生成コンテンツ数
ビジネスインパクト指標コミュニティ起因収益、顧客維持率の向上、解約率の低下、サポートコスト削減額

特に重要なのは、「健全性」と「事業貢献」をセットで追跡することです。健全性なくしては持続的成長はなく、事業貢献の可視化がなければ投資は続きません。

ROIの実証とデータ

海外の調査では、オンラインコミュニティは平均で4,530%という驚異的なROIを示し、10年後には5,000%を超えるとされています(CMX Industry Report 2023)。また、コミュニティ専門家の66%が「顧客維持率の向上に貢献した」と回答し、55%が「売上の増加を確認した」と述べています。

この数値は、単なるエンゲージメントではなく、収益性とコスト削減に直結するビジネス資産としてコミュニティを捉えるべきことを示しています。

経営層への伝え方

成果を社内に浸透させるには、複雑なデータを並べるよりも、インフォグラフィックなど視覚的に伝える工夫が有効です。また、短期成果に偏らず、投資効果が3〜5年かけて顕在化するという長期的視点を共有することも欠かせません。

CLGはマーケティングチャネルではなく、企業の成長基盤そのものです。成果測定とROIの提示は、コミュニティ投資を正当化し、持続的に発展させるための不可欠なプロセスといえるでしょう。

2025年以降のCLGトレンドと日本企業への提言

2025年を迎えるにあたり、コミュニティ主導成長(CLG)は世界的に一層注目を集め、日本企業にとっても戦略的な導入が求められる段階に入っています。背景にはデジタル化の進展、消費者の価値観の多様化、そして「信頼」を基盤とした経済への移行があります。

グローバルトレンドの方向性

国際的な調査機関Gartnerは、2025年までにBtoB企業の約70%がコミュニティを営業・マーケティング戦略の中核に据えると予測しています。特にAIと組み合わせたパーソナライズ体験が重要となり、コミュニティデータの解析を通じて、顧客一人ひとりに最適化された情報提供が進むと見られています。

また、Web3やDAO(自律分散型組織)の発展により、ユーザー自身が運営主体として関与する「分散型コミュニティ」が広がる兆しもあります。従来の企業中心型から、ユーザー中心の自律的な組織運営へと移行する可能性は、CLGの概念をさらに進化させるでしょう。

日本市場での特有の課題と可能性

一方で、日本企業がCLGを導入する際には独自の課題も存在します。組織文化としてトップダウン型の意思決定が強いため、顧客を「共創パートナー」として受け入れる発想に慣れていないケースが少なくありません。また、ROIの短期的成果を重視する傾向が強く、時間をかけてコミュニティを育成する投資に消極的になる危険性があります。

しかし、日本には顧客や地域社会との長期的な信頼関係を重んじる文化的土壌があります。ファンやユーザーとの「共助」の精神を活かせば、CLGはむしろ日本の企業文化に適合しやすいモデルといえるのです。

日本企業への提言

  • 小規模から始める:まずは限定的なテーマや製品を対象に、実験的なコミュニティを構築する
  • 部門横断で取り組む:マーケティングだけでなく、開発・営業・サポートを巻き込み全社的に推進する
  • 成果指標を明確化する:売上や維持率といったビジネスKPIと、エンゲージメント指標を両立して追跡する
  • オフラインの強みを活かす:リアルイベントや地域コミュニティとの連携を組み合わせ、日本独自の「場づくり」を展開する

2025年以降、CLGは単なるマーケティング手法ではなく、経営戦略の柱として位置づけられる時代に突入します。日本企業が成功するためには、短期的な成果にとらわれず、「人と人のつながり」という無形資産を長期的に育てる覚悟が不可欠です。