「CDOに提案すれば話が早い」と言われた時代は、確実に終わりつつあります。近年、多くの企業で最高デジタル責任者(CDO)の新設が減少し、その役割や位置づけが大きく変わってきました。
一方で、生成AIの急速な普及やデータ活用の高度化により、デジタルやAIは新規事業開発において不可欠な前提条件となっています。では、CDOが目立たなくなった今、新規事業担当者は誰と組み、どのように事業を前に進めればよいのでしょうか。
本記事では、ポストCDO時代に起きている組織構造の変化や、AIファースト経営への転換が新規事業開発に与える影響を整理します。国内外のデータや日本企業の具体事例をもとに、これからの事業開発担当者が押さえるべき視点と実践的なヒントをお伝えします。読み終えたとき、自社や顧客企業の組織をどう読み解き、どこにアプローチすべきかが明確になるはずです。
なぜ今「CDO不要論」が語られるのか
なぜ今、「CDO不要論」がこれほどまでに語られるようになったのでしょうか。その背景には、CDOという役職そのものの失敗ではなく、**デジタルの位置づけが企業経営の中で根本的に変わった**という構造変化があります。
2010年代、デジタルは競争優位を生む切り札として扱われ、CDOはその象徴でした。しかし2020年代半ばの現在、デジタルはもはや差別化要因ではなく、事業を行う上での前提条件へと変質しています。Harvard Business ReviewやForbesが繰り返し指摘するように、「特別な誰かがデジタルを推進する時代」が終わりつつあること自体が、不要論の本質です。
この変化は定量データにも表れています。PwC Strategy&の調査によれば、グローバル企業におけるCDOの新規設置数は2016年をピークに急減しました。一方で、既存のCDOが即座に消えたわけではありません。これは役割の重要性低下ではなく、**CDOに集中していた機能がCEO、CIO、CMOなどに分散し始めた**ことを意味します。
| 観点 | 2010年代 | 2020年代半ば |
|---|---|---|
| デジタルの位置づけ | 競争優位の源泉 | 事業の前提条件 |
| 推進主体 | CDOに集中 | Cスイート全体へ拡散 |
| 期待される成果 | 変革の旗印 | 継続的な事業価値 |
もう一つ重要なのが、期待値の反転です。Gartnerのハイプ・サイクルで見ると、CDOは「過度な期待のピーク」を越え、「幻滅期」を経て再定義の段階に入っています。経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」に象徴されるように、多くの企業でDXは構想倒れに終わり、その責任がCDO個人に帰されました。**救世主として迎えられたCDOが、成果の出ないスケープゴートになった**ことも、不要論を加速させた要因です。
さらに生成AIの急速な普及が、議論に拍車をかけています。AIは特定部門の専管事項ではなく、営業、開発、管理といった全業務を横断します。IDCやGartnerが示すように、AI戦略は全社経営課題であり、CDO一人に委ねる設計そのものが現実に合わなくなっています。日本企業でCDOがAI責任者を兼務するケースが多いのも、役職を増やす余地がないほど役割が拡散している証左です。
つまり、今語られるCDO不要論とは、「デジタル変革が不要になった」という意味ではありません。**デジタルが組織の隅々まで浸透し、特定の肩書きに依存しない段階に入った**という成熟のサインです。この前提を理解しないまま不要論を表層的に捉えると、次の成長機会を見誤るリスクが高まります。
世界と日本に見るCDO設置トレンドの変化

世界に目を向けると、CDO設置のトレンドはすでに転換点を越えています。PwC Strategy&が世界の主要上場企業を対象に行った調査によれば、CDOの新規設置数は2016年をピークに明確な減少局面に入りました。2018年にはピーク時の3分の1以下まで落ち込み、CDOという役職を新設する動き自体が一過性のブームであったことがデータから裏付けられています。
一方で重要なのは、CDOの存在感そのものが消えているわけではない点です。GartnerやIDCの分析では、デジタルやデータ活用が経営の前提条件となった結果、CDOが担っていた機能がCEO、CIO、CMOなど既存CxOに分散していると指摘されています。つまり世界では、「CDOを置くかどうか」よりも「誰がデジタルの意思決定権を持つか」が本質的な論点へと移行しています。
| 観点 | グローバル企業 | 日本企業 |
|---|---|---|
| 新規CDO設置 | 2016年以降は減少 | 2020年以降も一定数継続 |
| 役割の位置づけ | 既存CxOへ拡散 | CDOに集約・兼務 |
| AI責任 | CAIO新設が増加 | CDOが兼務する傾向 |
対照的に日本では、やや異なる進化曲線を描いています。CDO Club Japanやデロイト トーマツの調査によると、日本企業のCDOは専任よりも兼務が多数派で、経営企画担当役員やCIOがCDOを兼ねるケースが目立ちます。さらにAI活用に関しても、最高AI責任者を新設する企業は少なく、AI推進の約4割をCDOが担っているという実態があります。
この背景には、日本企業特有の組織文化があります。欧米のように役割を細分化してCxOを増やすよりも、既存の権限構造を活かしながら責任範囲を拡張する方が、組織の摩擦を抑えやすいと判断されているためです。Harvard Business Reviewでも、日本型DXは「肩書きの輸入」ではなく「役割の内製化」が鍵になると論じられています。
結果として、世界ではポストCDOを前提とした分散型モデルが進み、日本ではCDOをハブに据えた集約型モデルが続いています。同じCDOという肩書きでも、その意味と期待値は国によって大きく異なることを理解することが、新規事業開発を進める上での重要な前提条件になりつつあります。
CDOの役割進化:デジタル推進から事業価値創出へ
CDOの役割は、単なるデジタル推進責任者から、事業価値を直接生み出す存在へと大きく進化しています。かつてはWeb刷新やデジタル施策の旗振り役として期待されていましたが、現在ではその役割の重心が明確に変わりつつあります。GartnerやPwC Strategy&によれば、デジタルが競争優位ではなく前提条件となった結果、**CDOは「変革を語る人」から「利益を生む人」へと役割転換を迫られている**と指摘されています。
この進化は段階的に起きています。初期のCDOは啓蒙や実験を担っていましたが、近年はP&Lに責任を持ち、新規事業やデジタルプロダクトの収益化まで踏み込むケースが増えています。Harvard Business Reviewが紹介する先進企業では、CDOが事業部門の責任者を兼務し、AIやデータを活用した新サービスを自ら立ち上げています。これはデジタルが「支援機能」ではなく「事業そのもの」になったことを意味します。
| 観点 | 従来型CDO | 進化後のCDO |
|---|---|---|
| 主目的 | デジタル化の推進 | 事業価値・収益の創出 |
| 評価指標 | 導入件数・進捗 | 売上・ROI・顧客価値 |
| 関与範囲 | 横断組織 | 事業・プロダクト単位 |
特に生成AIの普及は、この進化を加速させています。IDCは、AI活用が経営成果に直結するにつれ、デジタル責任者に求められるのは技術理解だけでなく、事業構想力とリスク判断力だと述べています。日本企業でも、CDOがAI戦略を担い、新規事業の立ち上げ責任者として動く例が増えています。**データとAIをどう組み合わせ、どの市場で価値に変えるかを描けるか**が評価の分かれ目になります。
重要なのは、肩書きよりも機能です。CDOという名称が残るかどうかに関わらず、企業内には必ず「デジタルで稼ぐ設計者」が必要です。Oliver Wymanが示すように、成熟企業ほどこの役割は事業側に近づき、現場と経営をつなぐハブになります。新規事業開発に携わる立場から見ると、進化したCDOは単なる承認者ではなく、**共に事業を作る共同創業者に近い存在**として捉えるべき相手だと言えるでしょう。
生成AIがもたらすCAIO台頭とCスイート再編

生成AIの急速な普及は、Cスイートの力学を根底から揺さぶっています。従来のDXが効率化やデータ活用を主眼としていたのに対し、生成AIは意思決定、創造性、リスク管理にまで踏み込み、経営の中枢に直接影響を及ぼします。その結果として注目されているのが、最高AI責任者、いわゆるCAIOの台頭です。
IDCの予測によれば、2026年までにグローバル2000企業の約4分の1がCAIOを設置するとされています。Gartnerも、AI戦略とオペレーティングモデルを統括する責任者の必要性が急速に高まっていると指摘しています。これは流行語としての新設ポストではなく、生成AIがもたらす倫理・法務・ブランドリスクと、事業機会の爆発的拡大を同時に制御する必然的な動きだといえます。
| 観点 | 従来のDX責任 | 生成AI時代の責任 |
|---|---|---|
| 主な焦点 | 効率化・データ活用 | 意思決定・創造・自動化 |
| 主要リスク | セキュリティ・品質 | ハルシネーション・著作権・倫理 |
| 経営関与 | 間接的 | 極めて直接的 |
一方、日本企業ではCAIOを独立して設けるケースはまだ少数派です。国内調査では、CAIO設置率は数%にとどまり、AI推進の実務責任の4割以上をCDOが兼務していると報告されています。これは人材の希少性だけでなく、データガバナンスとAI活用を分断しないという合理的判断でもあります。**AIはデータの質と統制なしには価値を生まない**ため、両者を一体で見る方が現実的なのです。
この兼務モデルは、Cスイート再編の前触れでもあります。AIがマーケティング、オペレーション、人事、研究開発に横断的に浸透することで、CMOやCOO、CHROもAI前提での意思決定を求められるようになります。結果として、CAIOは単独の司令塔というより、各CxOを束ねるハブ的存在へと進化します。Harvard Business Reviewなどが指摘するように、AIガバナンスと事業価値創出を両立できる人物は、経営チーム全体の再設計を促す触媒となります。
新規事業開発の観点で重要なのは、肩書きではなく実質的な意思決定構造を見極めることです。AIを核とした事業提案では、**誰がAI利用のリスクを最終的に引き受け、誰が投資判断を下すのか**を把握する必要があります。多くの日本企業では、それがCDO兼CAIO、あるいはCIOに集約されています。この現実を理解することが、生成AI時代のCスイート再編を味方につける第一歩になります。
日本企業に特有のDX組織進化モデル
日本企業に特有のDX組織進化モデルを理解する上で重要なのは、欧米で語られる「CDOの廃止」や「次世代CxOの新設」をそのまま当てはめない視点です。日本では、メンバーシップ型雇用や長期的な人材育成、現場主導の改善文化が根強く、DXもまた急進的な組織破壊ではなく、段階的な進化として実装されてきました。
その代表例が、役割を一人に集中させない「機能分散型DX」です。PwCやGartnerの分析によれば、日本企業ではCDOを専任で置くよりも、CIOや経営企画担当役員が兼務し、必要な意思決定を既存組織に埋め込む傾向が強いとされています。これは意思決定の遅延を避けるためではなく、組織の免疫反応を抑え、現場に受け入れられるDXを進める合理的な選択です。
| 進化段階 | 組織的特徴 | 新規事業への影響 |
|---|---|---|
| 初期DX | DX推進室・CDO設置 | PoC中心で事業化は限定的 |
| 進化DX | 兼務CDO・機能分散 | 事業部主導で検証が加速 |
| 成熟DX | 内製化・権限委譲 | 継続的な事業創出が可能 |
象徴的なのがSOMPOホールディングスのCo-CDO体制です。外部のデジタル専門人材と内部昇格者を共同責任者とすることで、専門性と社内調整力を両立させました。Harvard Business Reviewでも指摘されている通り、DXの失敗要因の多くは技術ではなく組織摩擦にあります。このモデルは、日本企業がその摩擦を最小化するための現実解と言えます。
また、カインズのように「IT小売業」を掲げて内製化を進めた企業では、DX組織が単なる支援部門ではなく、事業競争力そのものを生み出すエンジンへと進化しています。経済産業省のDX銘柄調査でも、内製比率の高い企業ほど新規デジタル事業の立ち上げ成功率が高い傾向が示されています。
このように日本型DX組織の進化モデルは、肩書きの刷新ではなく、機能の浸透と現場への委譲によって完成します。新規事業開発に携わる立場から見ると、DX組織は「中央の司令塔」ではなく、事業部の中に静かに溶け込む触媒へと変わりつつあるのです。
新規事業開発を阻むレガシーシステムと2025年の壁
新規事業開発を阻む最大の構造要因として、避けて通れないのがレガシーシステムと「2025年の壁」です。経済産業省が指摘するこの問題は、単なるIT老朽化ではなく、**新しい価値創出のスピードそのものを奪う経営リスク**として認識されています。
多くの企業では、基幹システムが20年以上前の設計思想のまま稼働し続けています。事業部ごとに最適化された結果、顧客データや取引データが分断され、AIやデータ分析を前提とした新規事業を構想しても、そもそも使えるデータが存在しない状況に陥ります。Harvard Business Reviewでも、デジタル投資の成果が出ない企業の共通点として「データ基盤以前のシステム断絶」が指摘されています。
特に深刻なのが、ブラックボックス化とベンダーロックインです。システム仕様を把握しているのが外部ベンダーのみで、社内には設計思想を理解できる人材がいない。この状態では、新規事業に必要な小さな改修でさえ高コストかつ長納期になり、結果として挑戦そのものが敬遠されます。
| 観点 | レガシー環境 | 新規事業への影響 |
|---|---|---|
| データ構造 | 部門別・非統合 | 顧客横断の価値設計が困難 |
| 開発体制 | 外注・属人化 | 仮説検証のスピード低下 |
| 変更コスト | 高コスト・長納期 | 挑戦回避の意思決定 |
経済産業省は、DXが進まない場合、2025年以降に年間最大12兆円規模の経済損失が発生する可能性を示しています。この数字が示唆するのは、**既存事業の非効率化以上に、新規事業が生まれない機会損失**です。市場変化に対応できず、競争優位を築く前に撤退を余儀なくされる企業が増えることを意味します。
一方で、すべてを刷新する「ビッグバン型移行」が現実的でないことも事実です。そのため近年は、マッキンゼーが提唱するプロジェクト型からプロダクト型への転換が注目されています。基幹を一気に変えるのではなく、顧客価値に直結する領域から小さく切り出し、継続的に改善する考え方です。
新規事業開発の視点で重要なのは、レガシーを「足かせ」と嘆くのではなく、**どこまでなら動かせるのか、どこは触れない前提で設計するのかを見極めること**です。制約条件を正しく理解した上で構想された事業は、実行フェーズでの失速が起きにくくなります。
2025年の壁は、すべての企業に同じ高さで立ちはだかるわけではありません。しかし、レガシーシステムを直視せずに描かれた新規事業は、高確率でこの壁に跳ね返されます。**技術の新しさよりも、変えられない前提を踏まえた現実的な設計力**こそが、これからの新規事業開発に求められています。
プロジェクト型からプロダクト型への転換が意味するもの
プロジェクト型からプロダクト型への転換が意味するものは、単なる開発手法の変更ではありません。企業がお金の使い方、意思決定の軸、そして価値創出の定義そのものを変えるという、極めて経営的なシフトです。新規事業開発において、この違いを理解しているかどうかは、成功確率を大きく左右します。
従来のプロジェクト型は、期間・予算・スコープを固定し、「作って終わり」を前提としてきました。経済産業省が指摘するDX停滞の多くは、この構造に起因します。納品時点がゴールであるため、ユーザー価値や事業KPIの改善は二次的になり、結果としてPoC止まりが量産されました。
一方、プロダクト型は「価値を生み続ける」ことをゴールに据えます。McKinseyが示すように、先進企業ではプロダクト単位でチームと予算を恒常化し、仮説検証と改善を高速で回す体制へ移行しています。ここでは完成という概念がなく、顧客価値と事業成果が存続理由になります。
| 観点 | プロジェクト型 | プロダクト型 |
|---|---|---|
| 目的 | 計画通りに作る | 価値を出し続ける |
| 予算の考え方 | 単発・年度主義 | 継続投資 |
| 成功指標 | 納期・品質 | KPI・顧客価値 |
この転換が新規事業開発にもたらす最大の意味は、「予算獲得ゲーム」からの解放です。プロダクト型組織では、大型稟議や完璧な事業計画よりも、小さな実験で価値を示せるかが問われます。Gartnerによれば、プロダクト志向の組織ほどアジャイル投資が認められやすく、意思決定のリードタイムも短縮される傾向があります。
また、責任の所在も変わります。プロジェクト型では責任は完了時点で消えますが、プロダクト型ではプロダクトマネージャーや事業オーナーが継続的にP&LやKPIを背負います。これは新規事業担当者にとって、「作り手」から「事業当事者」へ進化することを意味します。
重要なのは、この転換がIT部門だけの話ではない点です。プロダクト型は、事業・技術・データが一体化した組織設計を前提とします。だからこそポストCDO時代において、肩書きよりもプロダクトを軸に人と権限が集まる構造が生まれています。
新規事業開発においては、自社や相手企業がどちらの思想に立っているかを見極めることが不可欠です。プロダクト型への転換とは、挑戦が許容される構造を持つ企業かどうかのリトマス試験紙でもあるのです。
ポストCDO時代に重要性を増すビジネスアーキテクト
ポストCDO時代において、組織の中で静かに、しかし決定的に重要性を増しているのがビジネスアーキテクトという役割です。**デジタルが競争優位ではなく前提条件となった現在、価値創出の成否は「誰がDXを担当しているか」ではなく「事業・業務・ITを誰が一貫した設計思想でつないでいるか」に左右されます**。その接着剤となる存在がビジネスアーキテクトです。
GartnerやMcKinseyが示すように、DXが停滞する企業の多くでは、経営戦略、現場業務、IT投資がそれぞれ最適化されている一方で、全体としては噛み合っていません。ビジネスアーキテクトは、この断絶を埋めるために、戦略のWhy、業務のHow、システムのWhatを一本のストーリーとして再構成します。**CDOのように目立つ肩書きではなくとも、実質的には「変革の設計責任者」**として機能しています。
この役割が重要になる背景には、CDO機能の拡散があります。デジタルやAIの意思決定がCMO、CIO、事業部門へ分散した結果、全体最適を俯瞰できる人材が不在になりがちです。Harvard Business Reviewでも、DXの失敗要因として「局所最適の積み上げ」が繰り返し指摘されています。**ビジネスアーキテクトは、分散した意思決定を再び構造として束ねるハブ**なのです。
| 観点 | CDO中心型 | ビジネスアーキテクト中心型 |
|---|---|---|
| 主な役割 | デジタル施策の推進 | 事業・業務・ITの統合設計 |
| 意思決定の焦点 | 技術導入・DX施策 | ビジネス価値と構造整合 |
| 組織内の位置 | CxOとして可視的 | 経営企画・DX室に埋め込まれる |
実務の現場では、ビジネスアーキテクトは新規事業の成否を左右する存在でもあります。例えばAIを活用した新規事業を検討する際、技術的に実現可能であっても、既存業務プロセスや評価制度と整合しなければスケールしません。**どの業務をAIに任せ、どこに人の判断を残すのか、その結果としてKPIや組織構造がどう変わるのかまで設計できるか**が問われます。この視点は、単一部門では持ち得ないものです。
McKinseyの調査によれば、DXで持続的な成果を出している企業は、プロジェクト単位ではなくプロダクト単位で価値を設計しています。そこでは必ず、ビジネスとITの翻訳者が存在します。日本企業においては、この役割が「DX推進室の中のベテラン」や「経営企画出身の実務家」として現れるケースが多く、外からは見えにくい点が特徴です。
新規事業開発者にとって重要なのは、**ビジネスアーキテクトを単なる調整役として扱わないこと**です。彼らは稟議や合意形成のための潤滑油ではなく、企業変革の設計思想そのものを握っています。その設計図の中に自分たちの事業アイデアがどう位置づくのかを語れたとき、提案は単なるPoCではなく、全社変革の一部として受け止められます。
ポストCDO時代とは、リーダーが消える時代ではありません。**肩書きではなく構造を設計する力が、静かに権力を持つ時代**です。ビジネスアーキテクトの重要性が増すという事実は、新規事業にとっての最大の攻略ポイントが、技術そのものから「全体設計を理解する知性」へと移行したことを示しています。
新規事業担当者は誰とどう連携すべきか
新規事業担当者にとって最大の誤解は、「CDOやDX部門と組めば話が早い」という発想です。PwCやGartnerの調査が示す通り、ポストCDO時代ではデジタルやAIの意思決定権は特定の役職に集中せず、事業部門や機能部門へと分散しています。つまり、連携すべき相手は肩書きではなく、課題と予算を持つ実質的なオーナーです。
特に重要なのが、事業部長やプロダクト責任者との関係構築です。IDCが指摘するように、生成AIやデータ活用が収益に直結するフェーズに入ると、意思決定の重心はP&L責任者に移ります。**新規事業の仮説やPoCを、技術起点ではなく事業KPIの改善案として提示すること**が、連携を前進させる鍵になります。
| 連携相手 | 主な関心 | 有効なアプローチ |
|---|---|---|
| 事業部長 | 売上・利益・競争優位 | 市場拡大やコスト構造改善の具体像を示す |
| プロダクト責任者 | 顧客価値・継続改善 | 小さな検証と学習サイクルを提案する |
| CDO/CIO | 全社整合・ガバナンス | 既存アーキテクチャとの適合性を説明する |
一方で、CDOやCIOとの連携が不要になるわけではありません。Harvard Business Reviewでも指摘されている通り、彼らは全社視点での調整役、いわば潤滑油として機能します。**早い段階で共有し、承認やリスク管理の見通しを立てておくこと**が、後工程の停滞を防ぎます。
さらに見落とされがちなのが、ビジネスアーキテクト的な人材です。経営企画やDX推進室に存在し、戦略と業務、ITを横断的に設計しています。McKinseyの分析によれば、変革が成功する企業ほど、この非公式なキーマンと新規事業担当者が密に連携しています。彼らの描く全体設計の中に自分の事業案を位置づけることで、社内合意形成は格段に容易になります。
新規事業担当者自身も、単なる企画者ではなく翻訳者として振る舞う必要があります。技術の言葉を事業の言葉に、現場の課題を経営の論点に変換する存在です。役職に依存せず、人と機能を見極めて連携できるかどうかが、これからの新規事業の成否を分けます。
参考文献
- Strategy+business(PwC Strategy&):Have we reached “peak” chief digital officer?
- Gartner:Build Data and Analytics Leadership Traits to improve Business Value
- PR TIMES:日本国内 CAIO設置率4%、AI推進の41%をCDOが兼務
- SOMPOホールディングス:デジタル変革の加速を目的としたCo-CDO体制への移行
- アトラシアン チームの教科書:【小売DXで先行】カインズに見る内製化と次世代リーダーシップ
- SERAI.jp:「2025年の崖」を知っていますか?DXの遅れが生む経済損失
