企業が持続的に成長し続けるためには、既存事業の効率化だけでなく、未来を切り拓く新規事業開発の成功が欠かせません。しかし、多くの日本企業が直面しているのは、優れた技術やアイデアがあっても、それを実行し市場価値へと変換できないという壁です。背景には、人材不足や組織の硬直化といった構造的な課題があります。
近年の調査では、日本企業の8割以上が「DX人材が不足している」と回答し、事業機会を逃す企業も増えています。つまり、新規事業の成否を分けるのは、資金や技術ではなく、それを活かす「人」と「チーム」の在り方なのです。
では、どのような人材が新規事業を成功へ導くのでしょうか。どのようなチームが、未知の領域で成果を生み出すのでしょうか。本記事では、最新のデータや研究結果、そして日本を代表する企業の事例をもとに、「個」「チーム」「組織」の3つの視点から、新規事業を推進するための条件を徹底的に解説します。DX時代の不確実性を乗り越え、未来を創造するための実践的ヒントをお届けします。
新規事業の成功を左右するのは「人」:なぜ今、人材とチームが鍵なのか

日本企業が直面している最大の課題は、アイデアや技術の不足ではなく、それを実行し市場価値へと転換できる「人材」と「チーム」の欠如です。経済産業省の「DXレポート2」によると、日本企業の約8割がDX推進に必要な人材が不足していると回答しています。特に、企画立案やデータ分析、プロジェクト推進を担う人材が圧倒的に足りていません。
この背景には、人口減少による労働力不足に加え、既存事業の延長線上でのキャリア形成が主流だった日本型雇用の構造的問題があります。社内でイノベーションを起こすための人材が育ちにくく、新規事業開発を任せられる「挑戦型人材」が絶対的に不足しているのです。
一方で、世界では「人」に投資する流れが加速しています。世界経済フォーラムの「Future of Jobs Report 2023」では、企業が今後最も重視するスキルとして、クリエイティブ思考・分析力・テクノロジーリテラシー・自己変革力が挙げられています。これらは単なるスキルではなく、変化を恐れず挑戦し続けるマインドセットを伴う能力です。
日本企業の多くは、既存事業を支える「安定型人材」は豊富でも、不確実性の中で成果を生み出す「探索型人材」が極端に少ないのが現状です。新規事業開発の現場では、顧客ニーズを読み解き、技術やデータを活用して新しい価値を創出する力が求められます。したがって、組織は「どんな事業を作るか」よりも、「どんな人がそれを担うか」に焦点を当てる必要があるのです。
新規事業を成功に導く人材には、次のような共通点があります。
- 不確実な状況でも意思決定ができる判断力
- 部門や専門領域を越えて協働できる柔軟性
- 失敗を学びに変える成長志向
- 顧客の課題を自分ごととして捉える当事者意識
これらの力を持つ人材が集まり、相互に補完し合うチームを構築することこそが、新規事業成功の最大の条件です。DXやAIの時代においても、最終的に価値を生み出すのは「人」であり、その力を引き出す組織設計が企業競争力の核心となります。
新規事業を牽引する「個」の力:スキルとマインドセットの両立
新規事業の推進において、最も重要なのは「個」の力です。アイデアを形にするスキルと、困難を乗り越えるマインドセットの両立が、変化の激しい市場環境を生き抜く鍵となります。
ハードスキルとソフトスキルのバランス
まず、スキル面ではハードスキルとソフトスキルのバランスが不可欠です。経済産業省の調査では、新規事業担当者に求められるスキルとして、マーケティング・財務・データ分析・プロジェクトマネジメント・UI/UX設計が上位に挙げられています。これらは数字やツールで可視化できる能力であり、学習によって習得可能です。
| スキル領域 | 内容 | 重要性 |
|---|---|---|
| マーケティング | 顧客理解と市場分析、仮説検証を通じて顧客価値を創出する力 | 高 |
| データ分析 | KPI設計、検証データの読み解き、意思決定支援 | 高 |
| UI/UX設計 | 顧客体験を最適化する設計思考 | 中 |
| 財務・会計 | 収支計画や資金繰りを含む事業計画の構築 | 中 |
| プロジェクト推進 | チームをまとめ、リスクを管理し、成果を出す実行力 | 高 |
しかし、これらのスキルを生かすためにはマインドセットが不可欠です。スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱した「成長マインドセット(Growth Mindset)」によれば、人の能力は努力と経験によって伸ばすことができるという信念が、挑戦を継続する原動力になります。
顧客中心主義とリーンな行動様式
さらに重要なのが、顧客中心の発想とリーンな行動様式です。完璧な企画を目指すより、最小限の製品(MVP)を素早く市場に出し、顧客の声を基に改善する「リーンスタートアップ」の考え方が主流です。失敗を恐れず、学びを重ねながら進化する力が求められます。
イントレプレナーがもたらす変革
また、社内での「イントレプレナー(社内起業家)」の存在も注目されています。彼らは与えられた業務に留まらず、事業全体を自分ごととして捉え、課題を発見し解決するリーダーシップを発揮します。ソニーの「Startup Acceleration Program」やリクルートの「Ring」のように、個人の情熱を事業化できる制度を持つ企業は、持続的に新しい価値を生み出す傾向が強いとされています。
結局のところ、新規事業を推進する「個」の力とは、スキルの総量よりも、顧客への共感、失敗を恐れない勇気、そして自ら道を切り拓く意思の総合体です。これらを兼ね備えた人材が集うとき、初めてイノベーションが現実のものとなります。
顧客中心主義とリーン思考:不確実性を乗り越える思考法

新規事業が失敗する最大の要因は、顧客の本当の課題を見誤ることにあります。ハーバード・ビジネス・スクールの調査によると、新規事業の約70%は「市場ニーズの欠如」を理由に失敗しているとされています。つまり、どんなに優れた技術や資金があっても、顧客が求める価値とずれていれば事業は成立しません。
この教訓を踏まえ、世界中の企業が重視しているのが「顧客中心主義(Customer Centricity)」です。企業都合のプロダクトアウト型ではなく、顧客が抱える課題や不満を起点に発想するマーケットイン型の思考が欠かせません。
日本企業ではユニクロが良い事例です。かつて展開した生鮮野菜事業「SKIP」は、衣料品の成功モデルをそのまま適用し、顧客の「鮮度」や「買い物体験」に対するニーズを軽視した結果、短期間で撤退しました。この失敗は、顧客起点の視点がいかに重要かを象徴しています。
リーンスタートアップが生む俊敏な学習サイクル
顧客中心主義を実現する有効な手法が「リーンスタートアップ」です。エリック・リース氏が提唱したこの手法は、完璧な製品を作るよりも、まず「実用最小限の製品(MVP)」を市場に投入し、顧客の反応を検証するアプローチです。
- 小さく作り、早く試す
- 顧客の反応を測定する
- 学習に基づいて改善・方向転換する
この仮説検証のサイクルを高速で繰り返すことで、失敗のコストを最小限に抑えながら、顧客が本当に求める価値を発見できます。米国のDropboxやAirbnbなども、MVPを通じて市場の反応を見極めたことから成長を遂げた典型的な例です。
日本企業が直面する「完璧主義の罠」
日本では、製品やサービスの完成度を高めてから市場に出す傾向が強く、これがスピードと学習機会の損失につながっています。IPA「DX白書2023」によると、日本企業の6割以上が「完璧な企画・製品を目指すあまり、リリースが遅れる」と回答しています。これは、リスク回避文化と品質志向が裏目に出ている典型例です。
一方で、顧客中心主義とリーン思考を融合させた企業では、短期間で仮説検証を行い、顧客のリアルな声から製品改良を続けています。たとえばメルカリでは、リリース初期段階から顧客の行動データを分析し、UI改善を日単位で実施する文化が根付いています。このように、顧客を“共創パートナー”と捉える姿勢が新規事業の成長を加速させるのです。
新規事業を成功に導くには、データ分析や設計スキル以前に、「顧客が何に困っているのか」「どんな変化を望んでいるのか」を問い続ける姿勢が欠かせません。リーン思考とは、顧客理解と素早い学習を組み合わせた“変化に強い事業づくりの知恵”なのです。
アントレプレナーシップを組織に宿す:挑戦する文化の育て方
どれほど優秀な戦略やフレームワークがあっても、挑戦する人材がいなければ新規事業は動きません。いま多くの企業に求められているのは、起業家精神――すなわち「アントレプレナーシップ」を組織の中に根づかせることです。
アントレプレナーシップとは、機会を自ら見出し、リスクを恐れずに価値を創造する力です。この精神を社内で発揮する人材は「イントレプレナー(社内起業家)」と呼ばれ、企業内イノベーションの担い手として注目されています。彼らは、与えられたミッションをこなすのではなく、「自分が変えるべき課題は何か」を自ら設定し、実行する存在です。
日本企業が抱える挑戦の壁
経済産業省の調査によれば、日本企業の約70%が「挑戦を奨励する風土が不足している」と回答しています。原因の多くは、年功序列型の評価制度と、失敗を許容しない文化にあります。こうした環境では、リスクを取って挑戦するよりも、失敗を避ける行動が合理的になってしまうのです。
しかし、スタンフォード大学のキャロル・ドゥエック教授が提唱した「成長マインドセット」の研究によると、失敗を学びの機会として受け入れる組織ほど、長期的に高い成果を上げる傾向が示されています。Googleの社内調査でも、チームの創造性を高める最大の要因は「心理的安全性」であると報告されており、挑戦できる文化の重要性が裏付けられています。
挑戦を仕組みに変える制度設計
アントレプレナーシップを育むためには、「挑戦を許容する文化」を感情論で終わらせず、制度として設計することが重要です。
- 社内ベンチャー制度の導入(例:リクルート「Ring」、ソニー「SSAP」)
- 失敗を減点しない評価制度(プロセス重視・加点型評価)
- 社外との協業機会の創出(スタートアップ連携・オープンイノベーション)
これらの仕組みは、単に新規事業を増やすためのものではありません。社員一人ひとりが自ら考え、行動する意識を醸成する「組織の学習装置」として機能します。
成功するイントレプレナーの共通点
調査企業リバネスの「QPMIサイクル」は、社内起業家の行動を4つの段階で説明しています。
| 段階 | 内容 | キーワード |
|---|---|---|
| Q(Question) | 自分の問いを持つ | 好奇心 |
| P(Passion) | 情熱を注ぐテーマを見出す | 内発的動機 |
| M(Mission) | 社会的な使命を定義する | 貢献 |
| I(Innovation) | 価値を創出する | 実践力 |
このサイクルを組織的に支援することが、アントレプレナー人材の育成につながります。ソニーの「wena」やリクルートの「Alumy」など、成功した新規事業の多くは、個人の情熱と組織の支援が結びついた結果として生まれています。
アントレプレナーシップとは、特別な才能ではなく、育まれる環境の産物です。社員の中に眠る情熱や好奇心を引き出し、失敗を恐れず挑戦できる組織をつくることこそ、企業の未来を切り拓く最大の投資なのです。
成功するチームの条件:役割分担と多様性のデザイン

新規事業開発は、1人の天才よりも「多様な才能の集合」によって成功します。ハーバード・ビジネス・レビューの研究によると、異なるバックグラウンドを持つメンバーで構成されたチームは、同質的なチームに比べてイノベーション創出率が2.3倍高いとされています。特に、不確実性の高い環境では、異なる視点や経験が意思決定の質を高める鍵になります。
チーム構成の黄金バランス
新規事業チームは「多様性」と「明確な役割分担」の両立が求められます。経済産業省の「イノベーション人材研究会」では、新規事業における理想的なチーム構成を次のように整理しています。
| 役割 | 主な責任 | 特徴的なスキル |
|---|---|---|
| ビジョンリーダー | 方向性を示し、チームを鼓舞する | 戦略思考・意思決定力 |
| 技術リーダー | 技術の可用性を見極め、開発を主導 | エンジニアリング知識・実装力 |
| 顧客理解担当 | 顧客課題の発見・検証をリード | リサーチ力・共感力 |
| オペレーション担当 | プロセス管理・KPI運用・改善 | 実行力・マネジメント力 |
| ファイナンス担当 | 収益モデル・予算管理 | 数字の感度・財務知識 |
このように役割を明確にすることで、メンバー間の衝突を防ぎ、協働を促進できます。特に重要なのは、「誰が意思決定を下すのか」「どの段階で合意を取るのか」を初期段階で明確にしておくことです。
多様性がもたらす創造的摩擦
チームの多様性は、時に意見の対立を生みますが、それこそがイノベーションの源泉です。マッキンゼーの報告によれば、性別や文化的背景の多様性が高いチームほど、業績が高い傾向にあり、多様性の上位25%に入る企業は、下位25%に比べて収益性が36%高いとされています。
ただし、多様性は放っておいても機能しません。心理的安全性が担保されてこそ、異なる意見がぶつかり合い、創造的な解決策が生まれるのです。
日本企業における課題と対策
日本企業では、長期雇用制度や年功序列が影響し、チーム内の多様性が限定的になりがちです。近年は副業制度の導入や社外人材との共創(オープンイノベーション)を進める企業も増えています。たとえばトヨタ自動車では、異業種出身者を集めた「ウーブン・バイ・トヨタ(Woven by Toyota)」を設立し、テクノロジーと自動車の融合を図っています。
異質な人材が集い、共通の目的を共有しながら挑戦できる環境こそが、新規事業チームの理想像です。多様性と役割分担のバランスを最適化することが、未来の競争力を決定づける要素となります。
心理的安全性が生むイノベーション:高パフォーマンスチームの基盤
イノベーションが生まれる現場では、個々の能力よりも「チームの空気」が成果を左右します。Googleが実施した「Project Aristotle(アリストテレス計画)」の研究では、チームの成功要因の中で最も重要なのは心理的安全性であると結論づけられました。心理的安全性とは、メンバーが安心して意見を言い合い、失敗を恐れずに行動できる環境を指します。
心理的安全性の4つの段階
組織心理学者ティモシー・クラーク博士は、心理的安全性を次の4段階で説明しています。
| 段階 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 包含の安全性 | チームの一員として受け入れられていると感じる | 所属意識を醸成 |
| 学習の安全性 | 質問や学びを自由に行える | 成長促進 |
| 貢献の安全性 | 意見を出し、役割を果たせる | 協働の促進 |
| 挑戦の安全性 | 新しいアイデアを試すことができる | イノベーションの創出 |
新規事業開発では、4段階目の「挑戦の安全性」が特に重要です。挑戦を阻む要因があると、メンバーは創造的な行動を避け、防衛的な姿勢を取るようになります。
心理的安全性がもたらす効果
ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授による研究では、心理的安全性の高いチームは、そうでないチームに比べて問題発見率が2倍高く、改善スピードが1.6倍速いという結果が出ています。新規事業のように試行錯誤が多い領域では、失敗を共有できる文化が成功の鍵になります。
心理的安全性の高いチームでは、次のような行動が自然に起こります。
- 問題やミスを隠さず報告できる
- 意見の違いを歓迎し、議論が活性化する
- メンバー同士が感謝や称賛を言葉で伝える
- 失敗を責めるのではなく、次の改善策を共に考える
これらの行動が重なり、組織全体に「学習する文化」が根づいていきます。
日本企業における実践事例
リクルートでは「心理的安全性スコア」を社内調査で可視化し、チーム単位で改善施策を進めています。また、富士フイルムでは新規事業部門に「失敗共有会」を設け、挑戦を奨励する風土を制度的に支えています。
新規事業の現場で最も恐れるべきは失敗ではなく、「発言できない沈黙」です。メンバーが安心して発言できる環境が整えば、組織は自律的に進化します。心理的安全性は、イノベーションを生むための“見えないインフラ”なのです。
組織の壁を超える「両利きの経営」:既存事業と新規事業を共存させる方法
多くの企業が新規事業開発に挑む中で直面するのが、「既存事業との摩擦」です。既存事業は安定収益をもたらす一方、新規事業は不確実性が高く、即効性のある利益を生みにくい。この二つをどう両立させるかは、多くの経営者が抱える永遠のテーマです。
この課題を解く鍵が「両利きの経営(Ambidextrous Organization)」です。ハーバード大学のジェームズ・O・マーチ教授が提唱した概念で、「既存事業の深化」と「新規事業の探索」を同時に実行できる組織を指します。
両利きの経営における2つの軸
| 軸 | 内容 | 主な目的 |
|---|---|---|
| 深化(Exploitation) | 既存事業の効率化・品質改善・収益最大化 | 経営の安定 |
| 探索(Exploration) | 新規事業の創出・市場開拓・イノベーション | 成長の原動力 |
問題は、この2つがしばしば「文化的に相反する」という点です。既存事業ではリスクを避け、計画通りに遂行することが重視されます。一方で新規事業では、試行錯誤を繰り返しながら方向を修正する柔軟性が不可欠です。
成功する企業の共通点:分離と連携のバランス
経営学者チャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマンは、成功する企業はこの「両利きのバランス」を巧みに取っていると指摘しています。
代表的な手法は「分離型両利きモデル」です。新規事業部門を既存組織から独立させ、異なる評価制度・人材構成・意思決定プロセスを設けることで、スピードと柔軟性を担保します。ただし、完全に切り離すと既存事業との連携が途絶えるため、経営トップが橋渡し役となり、両者を戦略的に接続することが重要です。
日本企業における成功事例
富士フイルムは、写真フィルムの需要が激減する中で「医療」「化粧品」「バイオ」など新領域に進出し、見事な転換を遂げました。既存のコア技術(化学・ナノテク)を活かしつつ、新規事業を別部門として育成したことで、安定と成長の両立に成功しています。
パナソニックも、家電部門と並行して新規事業の社内ベンチャー制度を展開し、AIやロボティクス分野への展開を進めています。こうした事例は、両利きの経営が単なる理論ではなく、経営構造そのものを変革する戦略的手法であることを示しています。
企業が持続的に成長するためには、「短期的利益を守る力」と「長期的成長を描く力」の両方を備える必要があります。その実現こそが、これからの時代の経営者と新規事業リーダーに求められる最重要スキルなのです。
日本企業の成功事例に学ぶ:ソニー・リクルート・富士フイルムの共通点
理論やフレームワークを理解しても、実際に組織を動かすのは容易ではありません。ここでは、数々の変革を成し遂げた日本企業の成功事例から、新規事業開発の実践知を学びます。
ソニー:情熱を引き出す「社内起業の文化」
ソニーは、新規事業のDNAを最も色濃く受け継ぐ企業の一つです。創業当初から「自由闊達な発想」を掲げ、ウォークマンやPlayStationなど、社員の情熱から生まれた事業が世界を変えてきました。
近年では「Sony Startup Acceleration Program(SSAP)」を通じて、社員が自らのアイデアを事業化できる仕組みを整備。失敗を責めず、挑戦を評価する文化を育てています。この仕組みの特徴は、社内外を問わずオープンに人材を巻き込み、共創を促す点にあります。
リクルート:自走型人材を生む「Ring」の仕組み
リクルートの「新規事業提案制度(Ring)」は、国内企業のイントレプレナー制度の先駆けといわれています。毎年数百件もの提案が寄せられ、過去には「ゼクシィ」「スタディサプリ」など数多くの事業がここから誕生しました。
同社の特徴は、事業計画の完成度よりも「個人の情熱と意志」を評価する点にあります。さらに、挑戦者を上司が支援する文化を制度化しており、組織全体でリスクを取る仕組みが整っています。これにより、社員が「会社の一部ではなく、事業の当事者」として成長できるのです。
富士フイルム:コア技術の再定義による事業転換
写真フィルム市場の衰退を乗り越えた富士フイルムは、「技術資産の再利用」による新規事業創出の好例です。同社は、長年培ってきた化学技術を医療・ライフサイエンス領域に応用。化粧品ブランド「ASTALIFT(アスタリフト)」などの成功は、既存技術を新市場に転換する“技術の再定義”の成果といえます。
また、富士フイルムは組織面でも柔軟性を保ち、研究・開発・マーケティングを横断的に連携させる「マトリクス型構造」を採用しています。これにより、イノベーションを阻む縦割り構造を打破しました。
3社に共通する成功の要因
- 社員の情熱を起点に事業を生み出す文化
- 挑戦を奨励し、失敗を許容する風土
- 既存資産を新たな市場価値へと転換する戦略的視点
- トップが変革の旗を振り、組織全体を巻き込むリーダーシップ
これらの共通点から分かるのは、「人材」「文化」「構造」の三位一体で変革を起こしていることです。新規事業の成功は偶然ではなく、挑戦が自然に生まれる仕組みづくりの成果なのです。
変化の激しい時代だからこそ、これらの企業に学ぶべきは「一人の挑戦を組織の成長につなげる仕組み」です。未来を切り拓く新規事業の答えは、常に人と文化の中にあります。
