ここ数年、新規事業開発の現場では「もうSaaSだけでは勝てないのではないか」と感じる場面が増えていませんか。

生成AIの急速な普及、地政学リスクの高まり、脱炭素や労働力不足といった社会課題が重なり、世界のテクノロジー投資は大きな転換点を迎えています。その中心にあるのが、ソフトウェア偏重から物理世界へと軸足を戻す「ハードウェアの逆襲」という潮流です。

かつて製造業大国と呼ばれた日本は、この変化において決して不利な立場ではありません。むしろ、精密加工や素材技術、現場データ、そして社会実装の切実さという点で、他国にはない条件がそろっています。

本記事では、新規事業開発に携わる方に向けて、なぜ今ハードウェア×ディープテックが注目されているのか、その背景にある市場・技術・投資の構造を整理します。さらに、半導体、ロボティクス、エネルギーなど具体分野の最新動向を通じて、日本企業が描ける現実的な勝ち筋を読み解いていきます。

読み終える頃には、自社の新規事業テーマをどこに定め、どのようなパートナーやビジネスモデルを選ぶべきか、次の一手がより明確になるはずです。

なぜ今「ハードウェアの逆襲」が起きているのか

2020年代半ばに入り、テクノロジー産業では「ビット」中心の成長モデルから「アトム」を伴う価値創出へと明確な転換が起きています。投資家の間で「ハードウェアの逆襲」と呼ばれるこの現象は、一過性の流行ではなく、複数の構造要因が同時に臨界点を超えた結果です。

第一の要因は、ソフトウェア投資の成熟と限界です。SaaSは依然として重要ですが、競争過多による差別化困難やユニットエコノミクスの悪化が顕在化しています。マッキンゼーの分析によれば、欧州ではディープテック分野が2030年までに1兆ドル規模の経済価値と100万人の雇用を生む可能性があり、模倣困難な物理技術を持つ企業の方が長期的な価値創出力が高いと再評価されています。

第二に、生成AIが「身体」を必要とし始めた点です。大規模言語モデルはクラウド上の知的処理にとどまらず、ロボットや自動車、産業機械と結びつくことで初めて実世界に影響を与えます。Qualcommなど主要半導体企業は、通信遅延やコスト、プライバシーの課題を背景にオンデバイスAIを加速させており、AI専用半導体、センサー、電源といったハードウェア需要が連鎖的に拡大しています。AIの進化そのものが、ハードウェアを必要条件に変えたと言えます。

観点 ソフトウェア中心 ハードウェア中心
参入障壁 低い 特許・設備で高い
成長特性 急拡大しやすい 段階的だが持続的
価値源泉 ネットワーク効果 物理技術とデータ

第三の背景は地政学と経済安全保障です。パンデミックや米中対立を経て、各国は半導体やエネルギー関連装置など戦略物資の国内・友好国生産を重視しています。日本でも経済安全保障推進法の施行により、製造基盤への公的資金が本格投入され、ハードウェアは国家戦略そのものになりました。

これら三つの要因が同時に進行した結果、物理世界を変革できる技術と事業を持つ企業に資本と注目が集まっています。今起きているのは懐古的な「ものづくり回帰」ではなく、AI・地政学・社会課題が交差する地点で必然的に生まれた、新しい成長エンジンとしてのハードウェア復権です。

ソフトウェア投資の飽和とディープテックへの資金シフト

ソフトウェア投資の飽和とディープテックへの資金シフト のイメージ

過去20年、ベンチャー投資の主戦場はSaaSを中心としたソフトウェアでした。初期投資が小さく、限界費用ゼロで急拡大できるモデルは、VCにとって極めて合理的だったからです。しかし2024年以降、その成功モデル自体が成熟し、投資効率の低下が顕在化しています。

競争の激化による顧客獲得コストの上昇、機能差別化の限界、生成AIによるコモディティ化が同時に進み、SaaS単体では持続的な超過リターンを生みにくくなりました。米欧の投資家の間では「良いSaaSはすでに出尽くした」という認識が共有されつつあります。

この反動として注目されているのが、科学的ブレークスルーを起点とするディープテックです。マッキンゼーによれば、欧州のディープテック投資は急成長しており、2030年までに1兆ドル規模の企業価値と100万人の雇用創出につながる可能性があるとされています。

観点 従来型ソフトウェア ディープテック
主な投資リスク 市場適合性 技術実現性+市場
参入障壁 低い 特許・設備で極めて高い
成長の形 急激なJカーブ マイルストーン型

ディープテックは研究開発期間が長く、シード段階から多額の資本を必要とします。一見すると非効率ですが、技術的な模倣が困難で、一度確立すれば長期にわたる競争優位を築ける点が再評価されています。

特に近年は、生成AIが物理世界へと進出し、半導体、ロボット、エネルギー、素材といったハードウェア領域と不可分になりました。ソフトウェアだけでは価値が完結せず、「アトム」を伴う企業こそがAIの実装価値を最大化できる構造へ変わっています。

投資家の視点も変化しています。短期的なユーザー数やARRよりも、技術的到達点、特許ポートフォリオ、量産時の支配力といった指標が重視されるようになりました。これは資本市場が、スケール速度よりも不可逆的な価値創出を求め始めた兆候です。

新規事業開発の観点では、この資金シフトは重要な示唆を持ちます。ソフトウェア前提の発想だけでは、社内外の投資家を説得しにくくなりつつあります。物理的制約を超える技術仮説をどう描くかが、事業構想の説得力を左右する時代に入っています。

ソフトウェア投資の飽和は終わりではなく、次の成長領域を照らすシグナルです。その光が今、ディープテックへと明確に向いています。

生成AIが物理世界に出ると何が変わるのか

生成AIが物理世界に出るとは、単にロボットが賢くなるという話ではありません。AIが現実の環境を知覚し、判断し、身体を通じて介入できるようになることで、産業構造そのものが変わり始めています。これまでの生成AIはクラウド上で文章や画像を生成する存在でしたが、近年はエッジデバイスやロボットに組み込まれ、「行動する知能」へと進化しています。

この変化を支える概念が、ロボティクス分野で注目されるRobotics Foundation Modelsです。スタンフォード大学やGoogle DeepMindの研究で示されているように、単一タスク向けに個別開発されていた制御AIとは異なり、汎用的な基盤モデルが多様な物理タスクを学習・転用できるようになっています。結果として、現場ごとの再学習コストが下がり、ロボット導入の経済合理性が大きく改善しました

実装面で重要なのは、生成AIがクラウド依存から脱却しつつある点です。Qualcommなどの半導体企業が示す予測では、2025年には出荷されるPCの約40%がオンデバイスAIに対応するとされています。通信遅延やセキュリティの制約を受けないため、工場、物流、医療といったリアルタイム性が求められる現場での活用が一気に進みます。

観点 従来の生成AI 物理世界に出た生成AI
主な処理場所 クラウド エッジデバイス・ロボット
価値提供 情報生成・補助 作業代替・自律実行
ビジネス影響 業務効率化 人手不足の構造的解消

日本市場では、この動きが特に現実的な意味を持ちます。深刻な労働力不足により、「人がやらなくてよい作業」を自動化するニーズが明確だからです。シリコンバレーバンクの分析でも、産業用ロボットはHaaSモデルとの親和性が高く、生成AIを搭載したロボットは単なる設備ではなく、継続的に価値を生むサービスとして評価され始めています

さらに重要なのは、データの質が競争力になる点です。物理世界で行動する生成AIは、センサー情報やモーションデータといった高価値データを継続的に生み出します。マッキンゼーが指摘するように、ディープテック企業は一度このデータループを構築すると、模倣が極めて困難な参入障壁を築けます。生成AIの物理実装は、ハードウェアとデータを結びつける新しい独占構造を生み出しつつあります

新規事業の視点では、生成AIを「賢いソフトウェア」として見るだけでは不十分です。身体を持った瞬間、AIはコスト構造、収益モデル、競争軸を同時に書き換えます。この変化をどう自社の現場や資産と結びつけられるかが、次の成長を左右します。

地政学リスクがハードウェア産業を再定義する

地政学リスクがハードウェア産業を再定義する のイメージ

地政学リスクは、ハードウェア産業の前提条件そのものを塗り替えつつあります。これまでの製造業は、コスト効率と最適配置を追求するグローバル分業が常識でしたが、パンデミックや米中対立を経て、その脆弱性が白日の下にさらされました。**いま重要視されているのは「最安で作れるか」ではなく、「止まらずに供給できるか」**という視点です。

OECDや英国議会の経済安全保障に関する分析によれば、半導体、蓄電池、重要鉱物といった戦略物資は、単なる産業財ではなく国家安全保障そのものと位置づけられています。これにより各国は、サプライチェーンを価値観や同盟関係で再編するフレンド・ショアリングへと舵を切りました。この流れは、ハードウェア産業に「地理」と「政治」を再び組み込む動きを加速させています。

日本では2022年に制定された経済安全保障推進法が、2025年にかけて本格運用段階に入りました。特定重要物資の安定供給を目的とした補助金や制度整備は、国内製造基盤への投資を強力に後押ししています。**これは単なるリショアリングではなく、調達から製造、在庫までを可視化・管理する新しいハードウェア×ソフトウェアの需要創出**につながっています。

観点 従来の前提 地政学リスク後の前提
サプライチェーン グローバル最適化 ブロック化・同盟圏内最適
評価軸 コスト・効率 レジリエンス・安全保障
ハードウェアの役割 代替可能な部品 戦略資産

この変化は、新規事業にとって大きな示唆を含みます。たとえば、半導体や装置そのものだけでなく、供給網のリスクを定量化し、リアルタイムで把握するためのセンサー、トレーサビリティ技術、データ統合基盤が不可欠になります。マッキンゼーが指摘するように、ディープテック領域では**物理インフラを押さえた企業ほど、長期的に高い参入障壁を築ける**とされています。

さらに重要なのは、地政学リスクがハードウェアの価値評価を変えた点です。これまで投資家に敬遠されがちだった装置産業や製造設備が、国家レベルの支援と需要の下支えを受け、安定した成長領域として再評価されています。**ハードウェアはもはや「重くて遅い産業」ではなく、地政学を背景にした成長ドライバー**へと再定義されているのです。

労働力不足が日本をロボット実装の最前線に押し上げる理由

日本がロボット実装の最前線に立つ最大の要因は、避けられない労働力不足が社会全体の意思決定を根底から変えている点にあります。少子高齢化により、生産年齢人口は中長期的に減少が確定しており、特に物流、建設、小売、介護といった現場産業では、人手不足が「不便」ではなく「事業継続リスク」として顕在化しています。

象徴的なのが物流分野のいわゆる2024年問題です。時間外労働の上限規制により、トラックドライバー不足が一気に表面化しました。国土交通省や業界団体の試算では、対策を講じなければ将来的に輸送能力の大幅な不足が生じるとされ、荷待ち・荷役作業の自動化や倉庫ロボット導入は、もはや選択肢ではなく前提条件になりつつあります。

この構造変化は、ロボット導入のROI計算を劇的に変えました。かつては初期投資の高さが障壁でしたが、採用コストの上昇、欠員リスク、現場の高齢化を織り込むと、ロボットの方が中長期で合理的になるケースが急増しています。シリコンバレーバンクの分析によれば、産業用ロボットはコスト低下と需要拡大が同時に進む領域であり、サブスクリプション型のHaaSやRaaSモデルと最も相性が良い分野だと評価されています。

観点 人手依存 ロボット活用
供給安定性 採用難・離職に左右される 稼働率を計画的に管理可能
コスト構造 人件費が継続的に上昇 月額費用として平準化
事業リスク 欠員が即停止に直結 停止リスクを最小化

重要なのは、日本ではこの判断が経営層だけでなく現場レベルでも共有され始めている点です。人が集まらない現実を前に、ロボットは雇用を奪う存在ではなく、業務を維持するためのインフラとして受け入れられています。経済学者や政策当局も、日本を「課題先進国」と位置づけ、社会課題が新技術の実装を加速させる実験場になっていると指摘しています。

労働力不足は日本にとって制約ではなく、ロボット実装を最速で社会に根付かせる強制力として機能しています。

この強制力こそが、実証から本格導入までの時間を短縮し、日本を世界で最も実装が進むロボット市場へと押し上げている本質的な理由です。

日本のディープテック・エコシステムはどこまで成熟したのか

日本のディープテック・エコシステムは、量・質・接続性の三点で明確な成熟段階に入っています。かつては研究成果と事業化の間に深い溝がありましたが、現在はその溝を埋める仕組みが制度的にも市場的にも整いつつあります。特に大学発スタートアップを軸に、研究、資金、人材、顧客が循環する構造が可視化されてきました。

象徴的なのが、東京大学や慶應義塾大学、東京科学大学を中心とした大学系VCの存在感です。UTokyo IPCやUTEC、KIIといった組織は、単なる資金提供にとどまらず、知財戦略、経営人材の招聘、海外展開までを一体で支援しています。MITの研究によれば、日本の大学系ファンドは創業前後の関与が深く、ディープテックの技術リスク低減に寄与していると評価されています。

資金面でも質的変化が起きています。経済産業省やNEDOによる非希薄化資金が初期リスクを吸収し、民間VCが中後期でリスクマネーを供給する分業が成立しました。これにより、研究開発期間が長いハードウェア・ディープテックでも、事業継続性が担保されやすくなっています。**政策資金が「呼び水」として機能し、民間投資を誘発する構造が定着し始めています。**

観点 10年前 現在
大学発ベンチャー支援 点在的・個別対応 VC・制度・拠点が一体化
資金調達環境 シリーズA以前が困難 非希薄化資金+VCで多層化
グローバル接続 個社依存 JETRO等による制度化

さらに重要なのは、国内完結型から脱しつつある点です。JETROのGSAPや海外アクセラレーターとの連携により、創業初期から米国や欧州市場を前提とした事業設計が増えています。グローバル・ベンチマークに晒されることで、技術とビジネスの両面で鍛えられる環境が整いました。

一方で課題が解消されたわけではありません。量産フェーズの資金規模や、CEO人材の層の薄さは依然として制約です。それでも、研究成果が社会実装へ至る確率は確実に高まっています。**日本のディープテック・エコシステムは「立ち上げ期」を終え、「再現性を伴う成長期」へ移行した段階にあると言えるでしょう。**

半導体・ロボティクス・エネルギーに見る日本発ハードウェアの現在地

日本発ハードウェアの現在地を俯瞰すると、半導体・ロボティクス・エネルギーはいずれも世界的な構造変化の中で再評価されている分野です。共通点は、ソフトウェア単体では完結しない物理的価値を前提とし、かつ日本の既存産業基盤と深く接続している点にあります。**かつての大量生産・低コスト競争ではなく、高度化・統合化による付加価値創出へと軸足が移っています。**

半導体分野では、Rapidusを象徴とする先端ロジックへの再挑戦が注目されています。IBMやimecとの連携のもと2nm世代を狙うこの動きは、経済産業省による経済安全保障政策と強く結びついています。OECDの技術政策分析でも、先端半導体は国家競争力の中核と位置づけられており、日本は設計支援や後工程を含む短納期対応で独自ポジションを築こうとしています。**量ではなくスピードと信頼性で勝つ戦略**が鮮明です。

ロボティクスでは、労働力不足という国内課題がそのまま実装優位性に転化しています。Telexistenceの事例が示すように、ロボットそのものよりも、稼働データや運用ノウハウを含めたRaaS型モデルが価値の源泉になっています。シリコンバレー銀行の分析でも、産業用ロボットはHaaSとの親和性が高く、安定収益を生みやすい分野とされています。**日本の現場は、世界でも稀有な「実データ取得環境」**として機能し始めています。

エネルギー分野、とりわけ核融合関連では、完成炉を作らずに高付加価値部材とシステムに集中する戦略が際立ちます。Kyoto Fusioneeringは、加熱装置や熱回収といった不可欠なコンポーネントを提供し、欧米プロジェクトに組み込まれています。国際エネルギー機関の議論でも、核融合は長期視点の技術ですが、周辺技術は早期から産業化が可能とされています。**日本企業はリスクの高い主役ではなく、不可欠な黒子として収益機会を確保しています。**

分野 日本の強み 現在地の特徴
半導体 精密製造、短納期対応 先端世代への限定的・戦略的参入
ロボティクス 現場データ、実装経験 RaaSによるサービス化とデータ価値
エネルギー 素材・部材、システム工学 核融合周辺技術でのグローバル供給

これら三分野に共通するのは、「全部を取らない」戦略です。巨大市場を正面から奪い合うのではなく、技術的に不可欠で代替困難な領域に集中することで、グローバルサプライチェーンに深く入り込んでいます。**日本発ハードウェアの現在地は、主役ではなく、外せない存在として世界に組み込まれる段階にあります。**

HaaSとRaaSがハードウェア事業の収益構造を変える

HaaSとRaaSの本質的なインパクトは、ハードウェア事業の収益構造を「一過性の売上」から「継続的なキャッシュフロー」へと転換させた点にあります。従来の売り切り型モデルでは、出荷時点が収益のピークであり、価格競争や需要変動の影響を強く受けていました。しかしIoTとクラウド、金融設計の進化により、ハードウェアはサービス提供の基盤へと再定義されています。

シリコンバレー銀行のState of Hardware-as-a-Service Report 2024によれば、HaaS企業は経常収益モデルとして評価され、売上高倍率の中央値が他のフロンティアテック企業より59%高いと報告されています。これは投資家が、ハードウェアであっても予測可能な収益と長期的な顧客関係を重視し始めたことを示しています。

項目 売り切り型 HaaS・RaaS
収益の発生 初回販売時のみ 月額・従量課金で継続
顧客関係 納品後に希薄化 運用・改善を通じて長期化
事業評価 景気・需要に依存 経常収益として高評価

RaaSが象徴的なのは、ロボットが「設備」ではなく「労働力の代替」として扱われる点です。小売や物流現場では、ロボット1台あたりの月額費用を人件費と比較するROI計算が一般化し、導入判断が加速しています。SVBは産業用ロボットをHaaSの最適領域と位置づけ、中央値で15か月という短い回収期間を示しています。

重要なのは、収益源がハードウェア本体から、稼働データ、保守、ソフトウェア更新へと拡張される点です。

実際、RaaS事業者は稼働率やタスクデータを蓄積し、運用最適化や二次利用データとして価値化しています。マッキンゼーも、物理世界のデータ取得能力を持つ企業が今後の競争優位を握ると指摘しています。HaaSとRaaSは単なる課金形態の変更ではなく、ハードウェア事業をデータ駆動型サービス産業へ進化させる構造転換だと言えます。

新規事業担当者が今取るべき戦略的アクション

新規事業担当者が今取るべき戦略的アクションの核心は、ディープテックを前提とした時間軸とリスク構造を受け入れ、従来とは異なる意思決定様式に切り替えることにあります。ソフトウェア中心の新規事業では、短期の仮説検証と市場適応が重視されてきましたが、ハードウェアを伴う領域では技術的成立性そのものが最大の不確実性になります。

マッキンゼーのディープテック分析によれば、成功している企業の多くは、初期段階で市場規模よりも技術的マイルストーンをKPIに設定しています。新規事業担当者自身が、売上や顧客数ではなく、試作成功、性能達成、量産性検証といった指標で経営層と合意形成を行うことが不可欠です。

次に重要なのが、社外エコシステムを前提にした事業設計です。大学発ベンチャー、試作拠点、専門VC、公的資金を組み合わせることで、単独では耐えられない研究開発リスクを分散できます。経済産業省やNEDOの非希薄化資金は、特に量産前の資金空白を埋める有効な手段として機能しています。

戦略的アクション 狙い 実務上のポイント
技術マイルストーン型KPI 不確実性の可視化 研究・製造部門と共通言語で管理
外部パートナー活用 死の谷の回避 量産経験を持つ組織を早期に巻き込む
HaaS前提設計 収益安定化 初期から保守・データ収益を織り込む

さらに、SVBのHaaSレポートが示す通り、ハードウェアでもサブスクリプションモデルを前提にすれば、回収期間は中央値15か月まで短縮できます。製品完成後にビジネスモデルを考えるのではなく、開発初期からサービス提供を前提に設計することが、新規事業としての成功確率を大きく高めます。

最後に、日本市場を実証実験の場として活用する視点も欠かせません。労働力不足という構造課題は、ロボットや自動化技術の社会実装を後押ししています。新規事業担当者は、日本で磨いた実装力を前提に、最初からグローバル展開を見据えた事業ストーリーを描くべき段階に来ています。

参考文献