病院に行くこと、薬を受け取ることが、これからも当たり前に続くと考えていませんか。少子高齢化や医療人材不足、そして物流2024年問題は、日本の医療提供体制の前提を静かに、しかし確実に揺るがしています。医療は「来院型」から、生活者のもとへ届く「アウトリーチ型」へと構造転換を迫られています。

こうした変化の最前線にあるのが、ヘルスケアにおける「ラストワンマイル」です。これは単なる配送の話ではなく、オンライン診療、処方薬配送、ドローンや医療MaaS、さらには見守りや服薬支援までを含む、新たな顧客体験そのものを指します。実際、国内外では具体的な成功事例や、治療効果を高める医学的エビデンスも蓄積され始めています。

本記事では、新規事業開発に携わる方に向けて、ヘルスケア・ラストワンマイル市場の全体像と構造変化を整理し、どこに本質的な事業機会があるのかを分かりやすく解説します。技術トレンドと規制、海外事例を俯瞰することで、次の一手を考えるための視座を提供します。

ヘルスケア・ラストワンマイルの再定義と市場が注目される背景

ヘルスケア分野で語られる「ラストワンマイル」は、もはや単なる配送の最終区間を意味しません。近年は、医療機関と生活者の間に横たわる物理的・時間的・心理的な距離をどう埋めるかという、医療提供体制そのものの課題として再定義されています。従来の来院型医療では、患者が移動できることが前提でしたが、この前提が現実と乖離し始めています。

背景にあるのは、不可逆的な社会構造の変化です。総務省や厚生労働省の資料によれば、後期高齢者人口の増加により通院困難者は今後も増え続け、同時に医療従事者や物流ドライバーの不足が深刻化しています。特に物流2024年問題は、医薬品を含む高頻度・即時配送モデルの持続可能性に警鐘を鳴らしました。

重要なポイントとして、ラストワンマイルは「医療を届けるための接点設計」そのものに変質しています。

さらに市場の注目を集めている要因が、デジタル基盤の成熟です。オンライン診療の恒久化や電子処方箋の普及により、診察・服薬指導・薬の受け取りが分断されずにつながり始めました。厚生労働省の制度改正資料によれば、これにより医療行為と物流行為の境界が曖昧になり、新しい患者体験が生まれつつあります。

  • 患者が移動する医療から、医療が生活圏へ浸透する構造への転換
  • 人手不足と規制強化による従来モデルの限界
  • DXによる医療と物流の融合
従来の考え方 再定義後のラストワンマイル
配送の最終工程 医療提供と生活者をつなぐ接点全体
効率・コスト重視 アクセス性・体験・継続性重視

このように、ヘルスケア・ラストワンマイルは一時的なトレンドではなく、人口動態、労働市場、技術進化が重なって生まれた構造的テーマです。市場が強く注目する理由は、ここに新規事業の余地だけでなく、医療の持続可能性そのものを左右する本質的な問いが内包されているからです。

物流2024年問題が医薬品サプライチェーンにもたらすインパクト

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物流2024年問題は、医薬品サプライチェーンに対して単なるコスト増ではなく、供給そのものの前提条件を揺るがす構造的インパクトを与えています。2024年4月から自動車運転業務の時間外労働が年960時間に制限されたことで、これまで暗黙の了解として成立していた「多頻度・小口・即応型」の医薬品配送モデルが持続不可能になりつつあります。

厚生労働省の資料によれば、医薬品卸の現場では午前・午後の1日複数回配送や、突発的な緊急納品への対応が常態化していました。しかし規制適用後は、同じルート・同じ人員では物理的に配送量を維持できず、特に地方や夜間帯で供給遅延リスクが顕在化すると指摘されています。**これは物流の効率問題ではなく、医療提供体制の安定性そのものに直結する課題**です。

影響はサプライチェーンの各層で異なる形で表れています。卸売業者ではドライバー確保難と稼働時間制約により、配送頻度の削減や締切時刻の前倒しが進んでいます。一方、医療機関や薬局側では、従来のジャストインタイム型在庫運用が成立しなくなり、欠品リスクへの不安が高まっています。

領域 主な変化 顕在化するリスク
医薬品卸 配送回数削減・委託増加 サービス水準低下、コスト上昇
医療機関 発注締切の前倒し 急変時の即応性低下
薬局 在庫積み増し検討 保管スペース・廃棄ロス増大

特に深刻なのは、緊急性の高い医薬品や代替困難な製剤です。厚生労働省や医療機器の流通改善に関する懇談会が示すガイドラインでは、翌日配送や厳格な時間指定を前提とした商習慣の見直しが求められています。**従来は「当たり前」とされてきた要求水準そのものが、制度上も再定義され始めている**と言えます。

この変化は、医薬品サプライチェーンが「部分最適」で成り立っていたことを浮き彫りにしました。物流事業者の努力だけでは限界があり、発注側である医療機関・薬局の協力が不可欠になります。具体的には、まとめ発注やリードタイム延長、外装受入基準の緩和といった対応です。

  • 頻回小口発注から計画発注への転換
  • 翌日必着を前提としない運用ルール
  • 返品・再配送を減らす受入基準の見直し

これらは一見すると現場負担の増加に見えますが、サプライチェーン全体では欠品防止と安定供給につながります。物流2024年問題は、医薬品流通を「我慢で回す仕組み」から「設計し直す仕組み」へ移行させる強制力として作用しています。

医薬品サプライチェーンにおける2024年問題の本質は、配送効率ではなく医療の持続可能性を問う点にあります。

新規事業開発の視点では、このインパクトを制約として捉えるか、構造転換の起点と捉えるかで打ち手は大きく変わります。物流2024年問題は、医薬品供給の前提条件を書き換え、市場参加者全員に協調と再設計を迫る不可逆的な変化として位置づけるべき局面に入っています。

オンライン診療と処方薬配送が生み出す新しい市場構造

オンライン診療と処方薬配送の組み合わせは、単なる利便性向上にとどまらず、医療市場の構造そのものを変えつつあります。最大の変化は、これまで医療機関を中心に形成されてきた需要と供給の関係が、デジタルプラットフォームを軸に再編されている点です。初診からオンライン診療が恒久化されたことで、診察、服薬指導、薬の受け取りまでが完全非対面で完結し、患者の行動半径は「通院可能圏」から「通信可能圏」へと拡張しました。

矢野経済研究所などの分析によれば、オンライン診療市場は2025年に200億円規模に達するとされていましたが、規制緩和後はそれを上回るペースで成長しています。特に注目すべきは、約7.7兆円とされる国内薬剤費市場の流通経路が変わり始めている点です。従来の門前薬局モデルに代わり、処方薬が自宅へ配送されるEC型モデルが現実的な選択肢として定着し始めています。

この変化により、競争の主戦場は「立地」から「ネットワーク密度」と「配送体験」へ移行しています。ジェイフロンティアのSOKUYAKUは、全国約13,000の薬局と提携し、人口カバー率約90%を実現しました。自社で大規模倉庫を持たず、既存薬局を分散型の配送拠点として活用することで、低投資かつ高速な全国展開を可能にしています。これは薬局が単なる調剤の場から、地域密着型フルフィルメント拠点へと役割転換していることを意味します。

項目 従来モデル 新モデル
患者行動 来院・来局 オンライン完結
競争軸 立地・対面対応 配送速度・UX
薬局の役割 受け取り窓口 分散配送拠点

一方、ファストドクターの事例が示すように、地域差という新たな課題も顕在化しています。都市部では翌日、あるいはそれ以前の配送が可能であるのに対し、地方や北海道では翌々日となるケースも明示されています。これは医療アクセスの格差が、通院距離ではなく配送リードタイムとして再定義されつつあることを示しています。

さらに、日本調剤とWoltの連携による即時配送は、市場構造に質的変化をもたらしました。オンライン服薬指導後、約30分で薬が届く体験は、オンライン診療を慢性疾患中心から急性疾患領域へと拡張します。「明日届く医療」から「今届く医療」への転換は、需要創出そのものを変える力を持っています。

オンライン診療と処方薬配送は、医療を「施設中心」から「生活者中心」へと再編し、新たな競争軸と市場プレイヤーを生み出しています。

この新市場では、医療機関、薬局、物流、IT事業者の境界が曖昧になります。厚生労働省の資料が示すように、電子処方箋やオンライン服薬指導の基盤整備は、医療行為と物流行為の融合を制度面から後押ししています。新規事業開発の観点では、個別サービスの最適化ではなく、診療から配送までを一気通貫で設計する視点こそが、市場構造変化の果実を最大化する鍵となります。

異業種連携が加速する即時配送モデルとその可能性

異業種連携が加速する即時配送モデルとその可能性 のイメージ

ヘルスケア・ラストワンマイルにおいて、異業種連携による即時配送モデルは、単なる配送手段の高度化ではなく、医療体験そのものを再設計する起点になりつつあります。特に注目されているのが、フードデリバリーや即配プラットフォームが持つギグワーカー網を医薬品配送に転用する動きです。

代表的な事例として、日本調剤とWoltの提携があります。公開情報によれば、オンライン服薬指導終了後、通常30分程度で処方薬を患者のもとに届ける体制を構築しました。これは従来の翌日配送を前提とした医薬品物流とは時間軸がまったく異なり、急性疾患や症状の強い患者にとって実用的な選択肢を生み出しています。

重要なポイントとして、即時配送は「便利さ」ではなく「医療の有効性」を拡張するインフラとして機能し始めています。

即時配送がもたらす価値は、スピードだけではありません。経済産業省や厚生労働省の資料でも指摘されている通り、オンライン診療の普及におけるボトルネックの一つは「薬がすぐに手に入らない不安」です。即配モデルはこの心理的障壁を取り除き、オンライン診療の利用範囲を慢性疾患中心から急性期へと押し広げる効果を持ちます。

異業種連携モデルの構造的特徴

  • 既存のギグワーカー網を活用するため、初期投資を抑えながら都市部で高密度展開が可能
  • 薬局をマイクロフルフィルメント拠点として機能させ、在庫回転率を高められる
  • 需要変動に応じた柔軟な供給ができ、物流2024年問題下でも持続性を確保しやすい

一方で、即時配送は万能ではありません。都市部では成立しやすいものの、地方や過疎地ではドライバー確保や採算性に課題が残ります。また、処方薬という高リスク商材を扱う以上、誤配や本人確認、温度管理といった品質担保が不可欠です。実際、専門家の間でも、スピードと安全性の両立が競争優位の分水嶺になると指摘されています。

観点 即時配送モデル 従来配送モデル
配送時間 30分〜数時間 翌日以降
主な適応 急性期・突発的症状 慢性疾患・定期薬
事業パートナー デリバリーPF、薬局 宅配便、医薬品卸

新規事業開発の視点では、このモデルを単独で成立させるのではなく、オンライン診療プラットフォームや在庫最適化システムと組み合わせた複合設計が重要になります。異業種連携による即時配送は、医療と生活をシームレスにつなぐ接点として、今後さらに進化していく可能性を秘めています。

ドローン物流の社会実装と日本における法規制の最新動向

ドローン物流は、実証実験の段階を越え、社会インフラとして定着できるかどうかの分岐点に差し掛かっています。特に医薬品配送のような高付加価値・高緊急性領域では、単なる技術革新ではなく、法規制と運用設計が事業成否を左右します。

日本における最大の転換点は、2022年12月の改正航空法施行です。国土交通省の制度整理によれば、第三者上空を飛行するレベル4飛行が解禁され、ドローンは「実験機」から「商用輸送手段」へと位置付けが変わりました。これにより、有人地帯での医薬品配送が法的に可能となっています。

**ドローン物流の社会実装は「飛ばせるか」ではなく「採算が合うか」という段階に移行しています。**

さらに2023年末には、レベル3.5という新たな区分が創設されました。これは、道路横断時に必要だった補助者配置や看板設置を、機体カメラや通信技術で代替できる制度です。国土交通省の説明によれば、運航コストを大幅に引き下げることを目的としており、事業化に直結する制度設計だと言えます。

飛行区分 主な特徴 事業インパクト
レベル3 無人地帯での目視外飛行 実証中心、商用は限定的
レベル3.5 補助者不要、デジタル代替 省人化により採算性向上
レベル4 有人地帯・第三者上空飛行 本格的な社会実装が可能

実際の事例として、東京都奥多摩地域では、KDDIスマートドローンや日本航空、医薬品卸のメディセオなどが参画するコンソーシアムが、医薬品のレベル4配送を実施しています。公表資料によれば、診療所から高齢者施設への定常配送を想定し、オペレーター1人で複数機を管理する運用も検証されています。

また奈良市東部では、NEXT DELIVERYがレベル3.5飛行を用いた処方薬配送と災害対応の両立モデルを実証しました。平時はオンライン服薬指導と連動した配送、有事には道路寸断時の代替輸送として機能する点が評価され、自治体側の期待も高まっています。

一方で、法規制が整ったからといって即座に普及するわけではありません。国土交通省や有識者の議論でも、天候依存性、離着陸場所の確保、最後の受け渡しであるラストインチの課題が繰り返し指摘されています。そのため現実的には、既存物流や人手配送と組み合わせたハイブリッド運用が前提となっています。

  • へき地や過疎地ではドローンを主軸に活用
  • 都市部では緊急時や時間価値の高いケースに限定
  • 平時と災害時を兼ねるデュアルユース設計

**ドローン物流の社会実装とは、単なる技術導入ではなく、法制度・自治体・既存物流を束ねた運用モデルの構築そのものです。** 新規事業として取り組む際は、規制対応をコストではなく競争優位の源泉として設計できるかが、最大の分かれ目になります。

医療MaaSと『動く病院』が切り拓くアウトリーチ型医療

医療MaaSと「動く病院」は、アウトリーチ型医療を象徴するアプローチです。従来の来院型医療では、患者が移動できないこと自体が医療アクセスの断絶を意味していましたが、医療MaaSはその前提を覆します。医療機能そのものが移動体となり、患者の生活圏に入り込むことで、ラストワンマイルの課題を根本から解決しようとしています。

この分野を牽引しているのが、MONET Technologiesによる医療MaaSの実証事例です。北海道オホーツク地域などでは、診察室機能を備えた車両が地域を巡回し、看護師や検査技師が同乗した上で、車内で検査やバイタル測定を行います。医師は病院からオンラインで診察を行い、移動時間という非生産的コストを削減しながら、複数地域を同時にカバーできる体制が構築されています。

重要なポイント:医療MaaSは「患者の移動困難」という社会課題を、モビリティとデジタルの融合によって医療提供側の生産性向上へ転換しています。

車両に搭載される機器は簡易的なものではありません。電子カルテ、ポータブル超音波診断装置、電子心電計、電子聴診器などが備えられ、実質的には「動く診察室」として機能します。北海道の事例では、産後検診や慢性疾患管理への活用が進められており、自治体資料によれば、通院負担の軽減だけでなく、受診率の向上という副次的効果も確認されています。

アウトリーチ型医療を成立させる上で、通信インフラは死活的に重要です。MONET Technologiesの実証では、地上回線が不安定な地域において、スペースX社の低軌道衛星通信Starlinkをバックアップ回線として導入しています。これにより、山間部やへき地でも高画質映像による診察が可能となり、地理的制約が医療の質を左右する構造そのものが崩れ始めています

観点 従来の往診 医療MaaS
医師の移動 必要 不要(遠隔対応)
対応可能人数 限定的 複数地域を並行対応
設備 最低限 診察室レベル

さらに、日本調剤などの大手薬局チェーンも医療MaaSに参画し、オンライン服薬指導との連携を進めています。診察から服薬指導までを車両内で完結させることで、患者体験は大きく向上します。自治体にとっても、病院統廃合が進む中で地域医療を補完する現実的な選択肢となっており、医療MaaSは単なる新技術ではなく、地域医療インフラの再設計手段として位置づけられつつあります。

新規事業開発の視点で見ると、医療MaaSの本質は車両販売ではありません。自治体、医療機関、薬局、通信事業者を巻き込んだエコシステム構築にあります。動く病院は、アウトリーチ型医療を社会実装するための「プラットフォーム」であり、ここに持続的な事業機会が眠っています。

海外先行事例に学ぶプラットフォーム戦略と日本市場への示唆

海外の先行事例から見えてくる最大の示唆は、ヘルスケア・ラストワンマイルが単独サービスでは成立せず、プラットフォーム戦略として設計されている点です。特に中国と米国では、診療・処方・配送・継続管理を一体化したエコシステムが、すでに競争の主戦場となっています。

中国のJD Healthは、JD.comの物流基盤を中核に据え、オンライン診療と処方薬販売を自社プラットフォーム内で完結させています。S&P Globalなどの分析によれば、JD Healthは30分以内配送を武器に、都市部だけでなく地方都市や農村部まで医薬品アクセスを拡張しました。これは単なるスピード競争ではなく、患者データを蓄積し、慢性疾患管理やファミリードクター制度へと接続することでLTVを最大化する構造です。

一方、米国のAmazon Pharmacyは、PillPack買収を起点に、既存の薬局・PBM中心の複雑な流通を再設計しました。Pharmaceutical Technologyによれば、価格の透明化、Prime会員向けの利便性、迅速配送を組み合わせることで、処方薬を一般ECと同水準のUXに引き上げています。ここで重要なのは、Amazonが医療を“特別扱い”せず、既存の物流・会員基盤という共通資産を横断的に活用している点です。

項目 中国:JD Health 米国:Amazon Pharmacy
中核アセット 自社物流網と医療データ Prime会員基盤とEC物流
価値提案 即時配送+継続ケア 透明価格+高UX
収益拡張 慢性疾患管理・サブスク 会員ロイヤルティ強化

これらの事例が日本市場に与える示唆は明確です。第一に、日本でもオンライン診療や電子処方箋が進展する中で、個別サービスの最適化ではなく、体験全体を束ねる設計力が競争優位になります。第二に、JD HealthやAmazonはいずれも「物流」を単なるコストではなく、差別化の源泉として位置付けています。これは物流2024年問題を抱える日本において、発想を転換すれば大きなチャンスになり得ます。

重要なポイントとして、海外先行事例は「規制が厳しいからできない」のではなく、「規制下でどうエコシステムを組むか」を競っている点が挙げられます。

日本市場では、調剤薬局網や医薬品卸という既存アセットが豊富に存在します。海外モデルをそのまま移植するのではなく、国内の薬局・自治体・物流事業者を束ねるプラットフォーム設計こそが現実解です。JD Healthのクローズド・ループ戦略やAmazonの横断的資産活用は、日本企業に対し、「自社はどの接点を握り、どこまで統合するのか」という戦略的問いを突き付けています。

服薬アドヒアランスと見守りが示すラストワンマイルの本当の価値

服薬アドヒアランスの議論において、薬が自宅に届いた瞬間がゴールだと捉えられがちですが、実際の価値はその先にあります。**配送後に「正しく飲まれ続けているか」「生活の中で異変が起きていないか」まで踏み込めるかどうか**が、ラストワンマイルの真価を決定づけます。

米国NIHに掲載された複数のレビューによれば、宅配薬局は服薬継続率を高める一方、飲み忘れや中断は依然として一定割合で発生します。特に独居高齢者や慢性疾患患者では、薬の到着よりも「日常の中での実行支援」がアウトカムを左右します。

ラストワンマイルの競争軸は「早く届ける」から「飲まれ続ける状態を設計する」へ移行しています。

この文脈で注目されるのが、服薬支援と見守りの融合です。日本郵便のみまもり訪問サービスや、ヤマト運輸のハローライト連携は、物流ネットワークを生活データの取得装置として再定義しました。**人やIoTが介在することで、配送は単発イベントから継続的な関係性へと変わります。**

施策 取得できる情報 事業的価値
訪問型見守り 対面時の体調・生活変化 B2G契約、信頼資産の蓄積
IoT見守り 在宅行動の異常検知 スケーラブルな継続収益
服薬支援ロボット 服薬実行データ アドヒアランス改善の可視化

さらに一歩進んだ例が服薬支援ロボットです。FUKU助やPARLOなどは、決まった時間に音声で服薬を促すだけでなく、日常会話を通じて心理的な安心感を提供します。**順天堂医院などの研究が示すように、「見守られている感覚」は治療継続意欲を高める重要因子**です。

  • 服薬行動をデータとして取得できる
  • 家族・医療者との情報共有が可能
  • 孤独感の軽減という非医療価値を提供

新規事業開発の視点で重要なのは、これらを単体サービスとしてではなく、配送と一体化した体験として設計することです。**薬が届き、飲まれ、生活が安定していることを確認できる一連の流れ**こそが、保険者や自治体、医療機関から評価される価値になります。

服薬アドヒアランスと見守りは、医療のラストワンマイルを単なるコストから、アウトカムを生む投資へと転換します。この転換点にこそ、新規事業が入り込む余地があります。