人が足りない。採用できない。現場が回らない。
新規事業開発に携わる方であれば、こうした声を社内外で耳にしない日はないのではないでしょうか。労働力不足は多くの企業にとって深刻な制約であり、事業拡大どころか現状維持すら難しくする要因として語られがちです。
しかし視点を変えると、この構造的な制約こそが、日本経済に長年欠けていた変革を一気に進める引き金になっています。人手に依存したビジネスモデルが限界を迎え、省人化、自動化、高付加価値化への投資が不可逆的に進み始めました。
本記事では、マクロ経済理論から最新の倒産動向、ロボットやDXの市場拡大、そして実際に危機を機会へと転換した企業事例までを俯瞰しながら、労働力不足を前提にした新規事業開発の考え方を整理します。
人がいないからこそ、何を事業機会として捉えるべきなのか。その答えを持ち帰っていただける内容をお届けします。
労働力不足はなぜ「危機」ではなく「転換点」なのか
労働力不足という言葉は、長らく日本企業にとって「避けるべき危機」として語られてきました。しかし近年、その意味合いは大きく変わりつつあります。人口動態という不可逆な制約が顕在化したことで、労働力不足はもはや一時的な経営課題ではなく、**産業構造そのものを変える強制力として機能し始めている**からです。
この点を理解するうえで重要なのが、マサチューセッツ工科大学のダロン・アセモグル教授らによる研究です。同教授らは、高齢化が進む国ほど自動化投資が活発化するという「人口動態と自動化の正の相関」を実証しています。労働者が希少になるほど、企業は人手依存を諦め、テクノロジーによる解決へと合理的に舵を切るのです。
実際、日本・ドイツ・韓国といった高齢化先進国では、労働者1000人あたりの産業用ロボット導入数が米英を大きく上回っています。これは倫理や理想論ではなく、**労働力不足が投資判断を変え、生産性革命を引き起こしている事実**を示しています。
| 国 | 高齢化の進行度 | 自動化投資の特徴 |
|---|---|---|
| 日本 | 世界最高水準 | 現場主導の省人化・ロボット活用が定着 |
| ドイツ | 高い | 国家戦略と連動した自動化投資 |
| 米国 | 相対的に低い | 人手確保余地があり自動化圧力は弱め |
さらに、日本経済特有の文脈として見逃せないのが、デービッド・アトキンソン氏が指摘する「高圧経済」の効果です。人手不足と賃金上昇が同時に進むことで、生産性の低い企業は市場から退出を迫られ、労働資源がより付加価値の高い分野へと移動します。これは痛みを伴うプロセスですが、**経済全体で見れば新陳代謝を促す健全な圧力**です。
東京商工リサーチや帝国データバンクの調査によれば、2024年には人手不足関連倒産が過去最多を更新しました。一見すると悲観的な数字ですが、その内実を見ると、人件費高騰に耐えられない企業が淘汰されている構図が浮かび上がります。これは「人を安く大量に使う」モデルの寿命が尽きたことを示す明確なシグナルです。
労働力不足は、非効率な延命を終わらせ、変革に踏み出した企業だけを前に進める選別装置として機能しています。
新規事業開発の視点で見れば、ここにこそ転換点の本質があります。需要が縮小するのではなく、「人を省く技術」「一人の生産性を高める仕組み」「人を前提としないビジネスモデル」への需要が不可逆的に拡大しているのです。しかもこれは景気循環ではなく、人口構造に裏打ちされた長期トレンドです。
労働力不足を危機と捉える限り、議論は防衛に終始します。しかし転換点と捉えた瞬間、視界は一気に開けます。**制約があるからこそ、投資は集中し、技術は進化し、市場は再編される**。いま起きているのは衰退の始まりではなく、日本経済が次の成長モデルへ移行するための不可逆なスイッチが入った瞬間なのです。
高齢化が自動化を加速させるという経済学の視点

高齢化が進むと経済は縮小するという見方は、近年の経済学では必ずしも支持されていません。むしろ、高齢化こそが自動化投資を誘発し、生産性向上を通じて成長を押し上げるという逆説的なメカニズムが明確になりつつあります。この視点を理論と実証の両面から示したのが、MITのダロン・アセモグル教授とパスカル・レストレポ氏による一連の研究です。
両氏は、1990年代から2010年代にかけての各国データを用い、高齢化の進展度合いと産業用ロボット導入の関係を分析しました。その結果、労働人口の減少が早く進んだ国ほど、企業が人手確保を断念し、資本集約的な解決策、すなわち自動化へと舵を切っていることが確認されています。人が希少になるほど、技術が選ばれるという極めて経済合理的な行動が、国家レベルで観測されているのです。
| 国名 | 労働者1000人あたりの産業用ロボット導入数 | 背景となる構造要因 |
|---|---|---|
| 韓国 | 20.14台 | 急速な少子高齢化と製造業中心の産業構造 |
| ドイツ | 16.95台 | 熟練労働者不足と国家主導のインダストリー4.0 |
| 日本 | 14.20台 | 長期的な労働人口減少と慢性的な現場人手不足 |
| 米国 | 9.14台 | 移民流入による相対的に潤沢な労働供給 |
この比較が示す本質は、技術力の差ではありません。労働市場の逼迫度合いが、企業の投資判断を決定づけているという点です。労働力が比較的安価で確保できる環境では、自動化は「コストのかかる選択肢」にとどまります。しかし賃金上昇と採用難が同時に進む局面では、人手依存モデルを維持すること自体が最大のリスクになります。
アセモグルらはさらに、自動化は単に労働力不足を埋め合わせるだけでなく、付加価値の源泉そのものを変えると指摘しています。定型作業が機械に置き換わることで、人はより判断・設計・改善といった高付加価値業務にシフトし、結果として一人当たりGDPが押し上げられる可能性があると論じています。これは、人口減少下でも豊かさを維持・拡大し得ることを示す重要な示唆です。
日本の文脈で見ると、この理論は極めて現実的です。製造現場、物流倉庫、サービス業のオペレーションなど、すでに多くの現場で「人を前提にした設計」が限界を迎えています。高齢化は選択肢を奪う一方で、変革を先送りできない状況を作り出すという点で、強力なドライバーとして機能しています。
新規事業開発の観点から重要なのは、この動きが一時的な景気循環ではなく、人口動態という不可逆な要因に基づいていることです。高齢化が進む限り、自動化・省人化への需要は減速しません。つまり、これは需要創出の努力を要しない、構造的に約束された市場です。高齢化をコストではなく、自動化を正当化し、普及させる経済的必然として捉え直すことが、次の成長機会を見極める出発点になります。
中小企業淘汰と生産性向上が同時に進む理由
中小企業の淘汰と生産性向上が同時に進む背景には、偶発的ではない明確な経済メカニズムがあります。最大の要因は、労働力不足と賃金上昇が同時に進行することで、企業経営に「逃げ場のない選択」を突きつけている点です。人手を増やせない、賃金も下げられない環境では、付加価値を高められない企業から市場退出が進む一方、対応できた企業の生産性は急激に高まります。
デービッド・アトキンソン氏が指摘するように、日本では長年、低生産性の中小企業が人口減少下でも温存されてきました。しかし2024年以降、人手不足と最低賃金の引き上げが重なり、いわゆる高圧経済の状態が常態化しています。**賃上げ原資を生み出せない企業は、防衛的賃上げによって利益を圧迫され、結果として倒産や廃業に追い込まれています。**これは経営努力の有無というより、構造的な選別が始まったことを意味します。
東京商工リサーチや帝国データバンクの調査では、2024年の人手不足関連倒産は過去最多水準に達し、その内訳も「人が集まらない」型から「人件費高騰に耐えられない」型へと質的に変化しています。この変化は重要です。なぜなら、単なる景気後退ではなく、**生産性の低いビジネスモデルそのものが成立しなくなった**ことを示しているからです。
| 要因 | 低生産性企業への影響 | 高生産性企業への影響 |
|---|---|---|
| 人手不足 | 採用不可・受注制限 | 省人化投資の加速 |
| 賃金上昇 | 利益圧迫・資金繰り悪化 | 価格転嫁・付加価値向上 |
| DX・自動化 | 投資できず競争力低下 | 労働生産性の飛躍的向上 |
一方で、淘汰が進むことは日本経済全体にとって負の側面だけではありません。MITのダロン・アセモグル教授らの研究が示す通り、労働力が希少になるほど企業は自動化やデジタル投資に踏み切りやすくなり、結果として一人当たりの生産性が向上します。**退出した企業の労働力や需要は、より生産性の高い企業へと再配分され、経済全体の効率が高まる**のです。
実際、倒産が増加する局面と並行して、ロボット導入や業務デジタル化への投資は拡大しています。中小企業であっても、協働ロボットやクラウドサービスを活用することで、従来より少ない人数で高い付加価値を生み出す事例が増えています。これは、単なる企業数の減少ではなく、産業構造の新陳代謝が進んでいる証左といえます。
重要なのは、この同時進行が一過性ではない点です。人口動態という不可逆な制約のもとで、**中小企業の淘汰は生産性向上の副作用ではなく、むしろ前提条件**として機能し始めています。新規事業開発の視点では、この環境こそが、高付加価値モデルや省人化ソリューションが急速に受け入れられる土壌になっていると捉えるべきです。
2030年に顕在化するIT人材79万人不足のインパクト

2030年に最大79万人のIT人材が不足するという経済産業省の試算は、日本企業にとって単なる採用難を超えた構造的インパクトをもたらします。この不足は、既存事業のDX停滞、新規事業の立ち上げ遅延、さらには競争力そのものの劣化に直結する点で、経営アジェンダの中でも極めて重大です。
特に新規事業開発の文脈では、「人がいないから作れない」「運用できない」という制約が常態化します。これは一方で、IT人材を前提としない事業設計や、少人数でもスケールするモデルへの転換を強制する圧力でもあります。MITのDaron Acemoglu教授らが示すように、労働希少性は自動化と生産性向上を促す強力なドライバーとして機能します。
| 影響領域 | 具体的な変化 | 事業への波及 |
|---|---|---|
| 既存事業 | DX人材不足で刷新が遅延 | コスト高止まり、競争力低下 |
| 新規事業 | 内製開発が困難 | 外部連携・SaaS活用が前提に |
| 組織戦略 | 採用競争の激化 | 人材コスト上昇、利益圧迫 |
この需給ギャップがもたらす本質的な変化は、IT人材の価値が「作業者」から「希少資源」へと完全に転換する点にあります。優秀なエンジニアを一社で囲い込むモデルは限界を迎え、副業、フリーランス、外部ベンダーとの協業が標準化していきます。
- AIやローコードによる開発の自動化需要が急増
- 非IT人材を前提としたツール・UX設計が重要に
- 人材そのものをプロダクト化する教育・リスキリング市場の拡大
実際、経産省の人材版伊藤レポート2.0でも、人的資本への投資とデジタル活用を結びつけた経営の必要性が強調されています。IT人材不足は日本企業の弱点であると同時に、事業モデル刷新を一気に進める触媒でもあります。
新規事業開発の責任者にとって重要なのは、この79万人不足を「自社が不利になる未来」と捉えるのではなく、「市場全体が同じ制約を抱える未来」と捉える視点です。その制約を前提条件として設計されたサービスやプラットフォームこそが、2030年以降のスタンダードになります。
人手不足倒産が急増する2024-2025年のリアル
2024年から2025年にかけて、人手不足倒産は一過性のニュースではなく、日本企業の構造的限界を可視化する現象として急速に存在感を強めています。東京商工リサーチによれば、2024年1月から11月までの人手不足関連倒産は266件に達し、通年では過去最多を更新しました。特に注目すべきは、単なる「採用難」ではなく、賃上げをしても報われない企業が退出に追い込まれている点です。
帝国データバンクの分析では、2024年度の人手不足倒産は350件に達し、その内訳は小規模・零細企業が大半を占めています。日本商工会議所の調査によると、賃上げを実施した企業の約6割が業績改善を伴わない「防衛的賃上げ」でした。人材流出を防ぐために賃金を上げたものの、価格転嫁や生産性向上が追いつかず、資金繰りが破綻するケースが連鎖的に発生しています。
| 倒産要因 | 2023年までの主因 | 2024-2025年の主因 |
|---|---|---|
| 人材確保 | 求人を出しても集まらない | 賃上げ原資が確保できない |
| コスト構造 | 低賃金・長時間労働で吸収 | 固定費化した人件費が重荷 |
| 経営判断 | 我慢による現状維持 | 撤退・廃業の選択 |
業種別では、建設業と運輸業が突出しています。建設業では、いわゆる2024年問題による残業規制、資材高騰、職人の高齢化が同時に進行し、倒産件数は前年同期比で約1.6倍に拡大しました。運輸業でもドライバー不足が深刻化し、仕事はあっても「運べない」ことで事業継続が困難になる事例が増えています。
デービッド・アトキンソン氏が指摘するように、人手不足と賃金上昇は低生産性企業を市場から退出させ、資源をより生産的な分野へ移動させる圧力として機能します。2024年以降の倒産急増は、この淘汰が政策誘導ではなく市場原理によって一気に進んでいることを示しています。
新規事業開発の視点で見れば、この現実は脅威であると同時に、確実な需要の裏付けでもあります。人手不足倒産が増えるという事実は、従来型の労働集約モデルが成立しなくなった証左であり、省人化、代替、効率化に価値を提供できる事業だけが生き残る時代に入ったことを明確に物語っています。
建設・物流・サービス業で起きているビジネスモデル崩壊
建設・物流・サービス業では、労働力不足をきっかけに、従来型のビジネスモデルそのものが機能不全に陥っています。共通するのは、低賃金・長時間労働・人海戦術を前提とした収益構造が、制度・市場・人口動態の三重苦によって一斉に破綻し始めたという点です。
まず建設業では、2024年4月からの時間外労働上限規制、いわゆる2024年問題が決定打となりました。東京商工リサーチによれば、建設業の倒産は過去10年で最多水準に達しています。工期短縮と低価格受注で利益を出すモデルは、残業規制と職人高齢化の下では成立せず、受注すればするほど赤字になる「逆スケール」が常態化しています。
| 業界 | 従来モデルの前提 | 現在起きている崩壊 |
|---|---|---|
| 建設 | 人手投入で工期短縮 | 規制下で工期延長・採算悪化 |
| 物流 | 長距離・長時間運行 | 運べないリスクの顕在化 |
| サービス | 低賃金多店舗展開 | 人員不足で営業停止 |
物流業界も同様です。ドライバー不足に加え、残業規制によって走行距離が制限され、「荷物はあるが運べない」状況が現実化しています。帝国データバンクの分析では、運輸業の倒産件数は前年同期比で大幅に増加しています。運べば運ぶほど疲弊するモデルは、価格転嫁が進まない限り持続しません。
サービス業、とりわけ飲食・介護ではさらに深刻です。厚生労働省関連データによれば、介護分野は需要増加にもかかわらず高い離職率が続いています。低単価サービスを人手で回す前提が崩れ、営業時間短縮や店舗閉鎖が相次いでいます。これは需要不足ではなく、供給能力の崩壊による市場縮小です。
- 安価な労働力を前提にした収益設計
- 属人化した現場オペレーション
- 価格転嫁できない業界慣行
これら三業界に共通するのは、「人を増やせば売上が伸びる」という線形モデルが完全に崩れたことです。MITのアセモグル教授らの研究が示す通り、労働が希少化する局面では、人的投入に依存する産業ほど生産性低下に直面します。今起きている倒産ラッシュは景気循環ではなく、モデル寿命の終焉を示す構造的シグナルだと捉える必要があります。
新規事業開発の視点では、これは危機ではなく明確な機会です。既存モデルが崩壊した領域ほど、DX、省人化、付加価値化による再設計余地が大きいからです。重要なのは、旧来モデルの延命ではなく、人が少なくても回る前提で事業を再定義することです。
サービスロボットと協働ロボットが生み出す新市場
サービスロボットと協働ロボットの進化は、単なる省人化にとどまらず、これまで成立しなかった業態や収益モデルを可能にする新市場を生み出しています。背景にあるのは、構造的な労働力不足がもはや一時的な課題ではなく、不可逆な前提条件になったという現実です。
矢野経済研究所によれば、日本のサービスロボット市場は2029年に約4000億円規模へ拡大すると予測されています。注目すべきは、この成長の中身が「人の代替」から「人とロボットの役割再設計」へと質的に変化している点です。配膳や清掃といった単機能の自動化だけでなく、業務全体を再構築する動きが加速しています。
| ロボット種別 | 主な活用領域 | 生まれつつある新価値 |
|---|---|---|
| サービスロボット | 飲食・介護・商業施設 | 少人数運営を前提とした店舗・施設モデル |
| 協働ロボット | 中小製造業・物流 | 多品種少量でも利益が出る生産体制 |
特に協働ロボットは、人と同じ空間で安全に作業できる設計により、中小企業でも導入可能な自動化手段として急速に普及しています。国際ロボット連盟やMITのAcemoglu教授らの研究によれば、高齢化が進む国ほどロボット導入が進み、生産性向上につながる傾向が確認されています。これは、日本市場が世界に先行する実証フィールドであることを意味します。
重要なのは、ロボット単体ではなく「ロボット前提の業務設計」そのものが新たな事業機会になる点です。例えば、配膳ロボットの導入によって、飲食店ではホール業務の定義が変わり、接客人員を最小化した高回転モデルや、地方でも成立する小規模店舗が実現しています。
この潮流は、ハード販売にとどまらず、保守、データ活用、運用支援を含むサブスクリプション型サービス市場を拡張しています。ロボットの稼働データを基にした業務改善提案や、複数拠点を遠隔で管理するオペレーション支援は、従来存在しなかったB2Bサービスです。
新規事業開発の視点では、「どの作業を自動化するか」ではなく、「ロボットと人が共存する前提で、どんな価値提供が可能になるか」を起点に発想することが重要です。労働力不足という制約が、結果として市場の未開拓領域を可視化し、サービスロボットと協働ロボットを核とした新市場を次々と立ち上げているのです。
建設DXと自動施工が変える現場と産業構造
建設DXと自動施工は、単なる省人化の手段ではなく、建設現場そのものの定義と産業構造を根底から変えつつあります。人手不足と2024年問題が同時に進行する中で、建設業はもはや人海戦術では成立せず、**テクノロジー前提で業務を再設計できる企業だけが生き残る産業**へと移行しています。
国土交通省が推進するi-Construction 2.0では、BIM/CIMを中核に据え、測量・設計・施工・維持管理までをデータで一気通貫させることが明確に打ち出されています。これにより、現場監督が日々行っていた進捗確認や出来形管理は、ドローン測量やIoTセンサーによって自動取得され、**管理業務の重心が「現場常駐」から「遠隔統括」へと移動**しています。
| 領域 | 従来の現場 | 建設DX後の姿 |
|---|---|---|
| 測量 | 人手による手測量 | ドローン・3D点群データ |
| 施工 | 熟練工の経験依存 | ICT建機・自動施工 |
| 管理 | 紙・口頭中心 | BIM/CIMによる可視化 |
特に象徴的なのが、自動施工と遠隔操作技術の進展です。国土交通省によれば、ダムやトンネルといった危険度の高い土木工事では、無人化施工の実証が進み、2025年度からは山岳トンネル工事での本格運用が計画されています。**一人のオペレーターが複数現場を統括する世界観**は、もはや実験段階を超えつつあります。
この変化は、産業構造にも連鎖的な影響を及ぼします。まず、建設会社の競争軸は「職人数」から「データとシステム運用力」へと移行します。次に、建機メーカー、ITベンダー、通信キャリアが連携するエコシステム型の産業構造が形成され、**建設業は単独産業から複合産業へと進化**します。
- 現場作業員は「施工者」から「機械・データのオペレーター」へ
- 元請企業は「施工管理会社」から「プロジェクト統合事業者」へ
MITのアセモグル教授らが指摘するように、高齢化と労働希少性は自動化投資を加速させ、生産性を押し上げます。建設DXはその最前線にあり、**人が減るから衰退するのではなく、人が減るからこそ進化する産業モデル**を体現しています。
新規事業の視点で見れば、この領域は単なる現場効率化では終わりません。施工データのプラットフォーム化、遠隔施工のSaaS化、自動施工を前提とした新しい発注・契約モデルなど、**建設業の外縁に巨大な事業機会**が生まれています。建設DXと自動施工は、現場を変えるだけでなく、産業の稼ぎ方そのものを書き換え始めているのです。
労働力不足を武器に変えた企業の成功パターン
労働力不足を嘆く企業が市場から退場する一方で、人がいない状況そのものを競争優位に転換した企業が確実に存在します。成功企業に共通するのは、人手不足を一時的な課題ではなく、事業構造を再設計するための前提条件として受け入れた点です。これは精神論ではなく、実証的にも裏付けられています。
MITのDaron Acemoglu教授らの研究によれば、高齢化と労働希少性が進む国ほど自動化投資が進み、生産性が向上する傾向があります。日本企業の成功事例は、この理論を現場レベルで体現していると言えます。彼らは人手不足に耐えるのではなく、人がいなくても回る仕組みを先に作ることで、結果的に成長余地を拡大しました。
具体的な成功パターンは大きく三つに整理できます。第一に、省人化を目的としたDXをコスト削減ではなく、価値創出の手段として位置づけた点です。DXセレクション2024で評価された企業の多くは、単なる効率化ではなく、意思決定の高速化や品質の標準化を実現しています。
- 属人業務をデータ化し、判断スピードを上げる
- 現場の負担を減らし、少人数でも高付加価値業務に集中させる
第二に、人手不足を理由に顧客価値を下げなかった点です。例えば物流やサービス業では、スタッフ不足を補うためにロボットやセルフサービスを導入しつつ、人は人にしかできない対応に集中させています。これにより顧客満足度を維持、あるいは向上させることに成功しました。
| 取り組み領域 | 従来モデル | 成功企業の転換 |
|---|---|---|
| 業務設計 | 人手前提の分業 | 自動化前提の再設計 |
| 人材活用 | 人数確保が最優先 | 一人当たり生産性最大化 |
| 投資判断 | 人件費中心 | テクノロジー中心 |
第三に、自社内の取り組みを競争優位として外部展開する発想です。自社の人手不足を解消するために導入した仕組みやツールを、同じ課題を抱える他社に提供することで、新たな収益源を生み出しています。これは経済産業省のDX事例分析でも、高い再現性を持つ成功パターンとして指摘されています。
重要なのは、労働力不足が深刻化するほど、こうしたモデルの価値が相対的に高まる点です。人を集められない企業が増えるほど、人に依存しない仕組みを持つ企業は選ばれる存在になります。労働力不足は市場全体の制約であり、それを先に乗り越えた企業だけが、次の成長フェーズに進めるのです。
新規事業開発で避けるべきモデルと狙うべき領域
新規事業開発において最も大きな失敗要因は、将来の制約条件を無視したビジネスモデル設計です。特に労働力不足が構造問題となった現在、従来型モデルを踏襲すること自体が高リスクになっています。**人が集まることを前提としたモデルは、もはや成長以前に存続が困難**だと認識する必要があります。
避けるべき代表例は、低賃金・長時間労働に依存する労働集約型モデルです。東京商工リサーチによれば、2024年の人手不足倒産は過去最多水準に達し、その内訳は「求人難」よりも「人件費高騰」が主因となっています。これは、人を確保できないだけでなく、確保できても採算が合わないモデルが限界に達したことを示しています。
- 大量採用を前提とするオペレーション型サービス
- 熟練人材の長期定着を暗黙に仮定した属人モデル
- 価格転嫁できない薄利多売型B2Cモデル
一方で、狙うべき領域は明確です。MITのDaron Acemoglu教授らの研究が示す通り、高齢化と労働希少性は自動化投資を加速させ、生産性向上を通じて経済成長を促します。**つまり「人を減らす」「人を強くする」市場は、人口動態に裏付けられた確実性の高い成長領域**です。
| 観点 | 避けるべきモデル | 狙うべき領域 |
|---|---|---|
| 労働力 | 人手前提・大量配置 | 省人化・自動化前提 |
| 付加価値源泉 | 人件費の安さ | 技術・データ・仕組み |
| 持続性 | 賃金上昇で崩壊 | 賃金上昇で優位性拡大 |
具体的には、Labor-Augmentation型のB2Bソリューションが有望です。建設・物流・介護といった人手不足産業では、一人当たりの生産性を2倍、3倍に引き上げる技術への需要が不可逆的に高まっています。経済産業省が指摘する2030年のIT人材79万人不足も、人を代替・支援するツール市場の拡大を裏付けています。
また見落とされがちですが、「自社で使うために作った仕組みの外販」も狙い目です。DXセレクションの事例が示すように、現場起点で生まれた省人化・効率化ツールは、同業他社にとっても切実なニーズがあります。**顧客がすでに存在する状態で始められる新規事業は、成功確率が格段に高い**のです。
労働力不足は制約であると同時に、参入障壁でもあります。この制約を前提条件として受け入れ、構造的に有利なポジションを取れるかどうかが、新規事業の成否を分けます。今後成長するのは、人を消費する事業ではなく、人の希少性を価値に転換できる事業です。
参考文献
- NBER:Automation Can Be a Response to an Aging Workforce
- MIT Economics / American Economic Review:Secular Stagnation? The Effect of Aging on Economic Growth in the Age of Automation
- 東京商工リサーチ:2024年11月までの「人手不足倒産」は266件で年間最多を更新
- 帝国データバンク:2024年度の人手不足倒産、過去最多の350件
- 経済産業省:IT人材需給に関する調査
- 矢野経済研究所:日本のサービスロボット市場動向
- 国土交通省:i-Construction 2.0の取組予定
