「新規事業を立ち上げたいが、どのプラットフォームを基盤にすべきか分からない」「AIをどう組み込めば競争優位を築けるのか見えない」――そうした悩みを抱える新規事業責任者の方は多いのではないでしょうか。

いまSalesforceは、単なるCRMを超え、AIとデータを中核に据えた“ビジネスプラットフォーム”へと進化しています。日本においてもパートナーエコシステムは本体ビジネスを大きく上回る規模に拡大すると予測され、周辺市場には膨大な機会が広がっています。

本記事では、最新の経済効果データや雇用創出の動向、テラスカイやソフィアメディ、JSOLの具体事例、さらにAgentforceやSalesforce Venturesの投資戦略までを網羅します。成功モデルと失敗パターンの両面から分析することで、Salesforceを活用した新規事業開発の実践的な打ち手を明らかにします。

Salesforceエコシステムとは何か──CRMを超えたビジネス基盤への進化

Salesforceエコシステムとは、単なる顧客管理(CRM)ツールの集合ではありません。アプリケーション、開発基盤、パートナー企業、投資ネットワーク、人材育成プログラムまでを包含した、巨大なビジネス経済圏です。

IDCの調査「Salesforce Economy Japan」によれば、日本におけるSalesforceパートナーエコシステムの事業規模は、Salesforce本体のビジネス規模の約5倍に達し、2026年には6.5倍に拡大すると予測されています。この数字は、Salesforceが“ツール”ではなく“市場”であることを明確に示しています。

SalesforceはCRM製品ではなく、企業活動を動かすクラウド基盤へと進化しています。

その進化を理解するために、従来型CRMとの違いを整理します。

観点 従来型CRM Salesforceエコシステム
役割 営業情報の管理 営業・マーケ・CS・開発を統合する基盤
拡張性 限定的なカスタマイズ AppExchangeやAPIで無制限に拡張
経済圏 単体ベンダー依存 パートナー・投資先・開発者を含む市場

特に重要なのは、AppExchangeを中心としたアプリ流通市場の存在です。自社開発だけでなく、既存アプリとの連携により短期間で事業モデルを構築できます。インフラ、セキュリティ、認証といった基盤機能はSalesforceが担保するため、新規事業は顧客価値の設計に集中できます。

さらに、同社の投資部門であるSalesforce Venturesは生成AI領域に10億ドル規模のファンドを拡大し、AnthropicやCohereなどへ投資を行っています。これは単なる財務投資ではなく、将来Salesforce基盤に統合される可能性の高い技術群を示唆しています。

また、Trailheadに代表される学習基盤は、エンジニアだけでなく営業や業務部門の人材までを巻き込み、デジタルスキルの標準化を進めています。IDCによれば、AI搭載クラウドの普及は世界で1,100万人超の純雇用増をもたらすと試算されています。プラットフォームはソフトウェアだけでなく、人材市場まで形成します。

つまりSalesforceエコシステムとは、テクノロジー、パートナー、投資、人材が循環するビジネスインフラそのものです。新規事業開発においては、この循環の中に“参加する側”として入るのか、“上で構築する側”として活用するのかという視点が極めて重要になります。

CRMを導入するという発想ではなく、拡張可能なクラウド基盤の上に自社の事業モデルを設計する。この視点転換こそが、Salesforceエコシステムを理解する第一歩です。

Salesforce Economy Japanの成長予測と市場機会

Salesforce Economy Japanの成長予測と市場機会 のイメージ

新規事業の成否を左右するのは、市場そのものが拡大しているかどうかです。IDCの調査「Salesforce Economy Japan」によれば、日本におけるSalesforceエコシステムは、単なるクラウドCRM市場を超えた巨大な経済圏へと進化しています。

特に注目すべきは、Salesforce本体の売上ではなく、その周辺に広がるパートナーエコシステムの成長です。現在、日本におけるパートナーエコシステムの事業規模はSalesforce本体の約5倍に達しており、2026年には6.5倍に拡大すると予測されています。

これは「Salesforceを導入する企業」が増えているだけでなく、「Salesforce上でビジネスを行う企業」が急増していることを意味します。

指標 現状 2026年予測
パートナー市場規模 本体の約5倍 本体の約6.5倍
エコシステム収益 2020年比 3.2倍に拡大

さらにIDCは、Salesforceエコシステム全体の事業収益が2020年比で2026年に3.2倍へ拡大すると推計しています。これは一般的なIT市場の成長率を大きく上回る水準であり、構造成長市場であることを示しています。

重要なのは、この成長がライセンス再販に限定されていない点です。導入コンサルティング、アプリケーション開発、データ連携、運用保守、業界特化ソリューションなど、付加価値領域にこそ収益機会が集中しています。

また、同調査では2021年から2026年の5年間で、日本において974億ドル規模の新規事業収益と44万人超の新規雇用創出が見込まれるとされています。これは単なるIT投資ではなく、産業構造レベルでの波及効果を伴う拡大であることを示唆しています。

新規事業開発の観点では、「Salesforceを使う企業」になるのではなく、拡大し続ける6.5倍の周辺市場を取りに行くという視座が重要です。既存プロダクトの隙間、業界特有の業務、地域特化型サービスなど、エコシステム内部には未充足ニーズが多数存在します。

成長が予測されている市場では、競争は激しくなりますが、同時にプレイヤーが増えることで市場教育コストが下がり、参入障壁も相対的に低下します。拡大期にあるプラットフォーム経済圏に乗ることは、新規事業にとって合理的なリスクテイクだといえます。

Salesforce Economy Japanは、単なるクラウド市場の一角ではありません。本体を上回る速度で拡張するエコシステム市場こそが、次の事業機会の本丸です。

雇用創出・人材戦略へのインパクトとTrailheadの可能性

Salesforceエコシステムの拡大は、単なるIT投資の話にとどまりません。雇用構造そのものを再設計するインパクトを持っています。

IDCの「Salesforce Economy Japan」によれば、Salesforceエコシステムは2026年までに日本で44万人超の新規雇用を創出すると試算されています。さらにパートナーエコシステムの事業規模は本体の6.5倍に拡大する見込みであり、雇用の主戦場は周辺ビジネスへと広がっています。

これは新規事業責任者にとって、人材戦略を“後工程”ではなく“事業設計の起点”に置くべきことを示唆しています。

指標 数値 示唆
パートナー規模(2026年予測) 本体の6.5倍 周辺領域に雇用機会が集中
日本の新規雇用創出 44万人超 IT以外の職種にも波及
郊外・地方人材活用 31% 地理制約の緩和

特に注目すべきは、地方・多様人材の活用です。顧客企業の31%が郊外・地方人材を活用し、35%が多様な人材活用を実現したと報告されています。クラウド前提の業務設計により、従来の本社集中型モデルから分散型モデルへと移行が進んでいます。

さらに、2021年に創出された新規雇用の24%では自動化やIoTなどのデジタルスキルが活用されました。ここで鍵となるのが、Salesforceの無償学習プラットフォーム「Trailhead」です。

Trailheadは単なる研修ツールではなく、労働移動を促進する“スキルインフラ”として機能しています。

Trailheadはモジュール単位でCRM、AI、データ活用などを体系的に学べる設計になっており、非エンジニア人材でも段階的に専門性を高められます。これにより、新規事業部門が外部採用に依存せず、既存社員のリスキリングによって立ち上げチームを構築する選択肢が広がります。

重要なのは、Trailheadを福利厚生的な学習施策として扱うのではなく、事業KPIと直結させることです。たとえば「Data Cloud関連バッジ取得者を10名育成する」ことを新サービス開発の前提条件にするなど、スキル獲得を戦略目標に組み込みます。

AI時代においては、Agentforceのような自律型AIと協働できる人材が競争力の源泉になります。雇用創出とは単に人数を増やすことではなく、AIと共創できる職種を設計することです。

Salesforceエコシステムは、市場拡大と同時に“学習する労働市場”を生み出しています。新規事業を成功させる企業は、この人材循環の流れを読み、自社をその中心に位置づけられるかどうかで差がつきます。

サステナビリティとGX時代におけるSalesforce活用の意義

サステナビリティとGX時代におけるSalesforce活用の意義 のイメージ

GX(グリーントランスフォーメーション)が経営アジェンダの中核に位置づけられる現在、新規事業においても脱炭素やサステナビリティへの対応は前提条件になりつつあります。その中でSalesforceは、単なるCRMではなく、脱炭素経営を実装するためのクラウド基盤として重要な意味を持っています。

IDCの調査によれば、オンプレミスからクラウドへの移行が進むことで、2021年から2024年の間に世界全体で約10億トンのCO2削減が見込まれるとされています。Salesforceは自社オペレーションを100%再生可能エネルギーで賄う目標を掲げ、顧客に対してもカーボンニュートラルなクラウド環境を提供しています。

日本国内でも、顧客企業の29%が自社のサステナビリティ目標達成のパートナーとしてSalesforceを頼りにしているというデータがあります。これは、新規事業がSalesforce基盤を採用すること自体が、ESG配慮型ビジネスであるというメッセージになることを示しています。

観点 従来型(オンプレミス) Salesforce活用
インフラ運用 自社設備・電力消費大 再エネ活用クラウド基盤
CO2管理 部門別に分断 顧客・取引データと統合可視化
対外説明責任 定量データ不足 リアルタイムレポーティング

さらに重要なのは、顧客データと環境データを統合できる点です。営業活動、サプライチェーン、サービス提供状況を一元管理することで、CO2排出量や環境配慮型商品の販売比率などをリアルタイムで把握できます。これはGX関連の新規事業において、戦略立案と開示対応を同時に実行できるという強みになります。

サステナビリティはコストではなく競争優位の源泉です。Salesforceという信頼性の高いプラットフォーム上で事業を構築することは、環境配慮と成長戦略を両立させる経営基盤を最初から備えることを意味します。GX時代の新規事業において、その選択はブランド価値と投資家評価を左右する戦略的意思決定になります。

新規事業モデル① OEM/ISVモデルとAppExchange戦略

OEM/ISVモデルは、Salesforceプラットフォーム上に独自アプリケーションを構築し、Salesforceライセンスと組み合わせて提供する事業形態です。

インフラやセキュリティ、認証基盤を自社で保有せずに済むため、開発リソースを顧客価値そのものに集中できる点が最大の特徴です。

さらにAppExchangeを通じて販売することで、国内外のSalesforceユーザーに直接リーチできます。

観点 OEM/ISVモデル 自社フルスクラッチ開発
インフラ構築 Salesforce基盤を活用 自社で設計・運用
市場アクセス AppExchange経由で即時接続 個別営業が中心
信頼性 エンタープライズ水準を継承 自社で担保
開発集中領域 業務ロジック・UX 全領域を自社対応

IDCの「Salesforce Economy Japan」によれば、日本におけるSalesforceパートナーエコシステムの規模は本体ビジネスの5倍に達し、2026年には6.5倍へ拡大すると予測されています。

この数字は、単なる再販ではなく、アプリケーション開発そのものが巨大な成長市場であることを意味します。

OEM/ISVモデルはまさにこの周辺市場を取りに行く戦略です。

代表例がテラスカイの「mitoco」です。

Salesforceとグループウェアの分断という課題に着目し、顧客情報と社内コミュニケーションを同一基盤で統合しました。

東京海上日動火災保険のような大企業への導入実績は、OEMモデルを採用することで新規事業でもエンタープライズ市場に参入可能であることを示しています。

AppExchange戦略の本質は「流通チャネル」ではなく「信頼のショーケース」です。

AppExchangeに掲載されるには、Salesforceのセキュリティレビューを通過する必要があります。

このプロセス自体が品質保証となり、顧客にとっての導入ハードルを下げます。

特にBtoB領域では、信頼性が購買決定の大きな要素になります。

成功の鍵は、汎用機能の横展開ではなく「標準機能では埋まらない隙間」を狙うことです。

日本特有の商習慣や、業界特有の契約・請求プロセスなど、グローバル製品では最適化されにくい領域に特化すると、競争優位を築きやすくなります。

さらにSalesforceのアップデートに追随する開発体制を持つことで、プラットフォーム進化を自社の成長エンジンに転換できます。

OEM/ISVモデルとAppExchange戦略は、単なるプロダクト販売ではありません。

Salesforceという巨大な経済圏の中で、自社を「標準の一部」に組み込むポジショニング戦略です。

プラットフォームを借りるのではなく、共生する発想こそが、このモデルで新規事業を成功させる核心です。

新規事業モデル② サービス業のDXとスケーリング戦略

サービス業におけるDXの本質は、単なる業務効率化ではなく、「属人化した現場力を、再現可能な仕組みに変えること」にあります。特に多拠点展開やフランチャイズ化を目指す場合、品質とスピードを両立できるデジタル基盤の有無が、成長曲線を大きく左右します。

IDCの「Salesforce Economy Japan」によれば、日本のSalesforceパートナーエコシステムは本体ビジネスの5倍規模に達し、2026年には6.5倍に拡大すると予測されています。これは、単なるツール導入ではなく、周辺の業務設計・運用モデルまで含めた変革ニーズが急増していることを示しています。

サービス業のDXとスケーリングを整理すると、以下の構造になります。

変革対象 DX前の状態 DX後の状態
顧客情報 拠点・担当者ごとに分散 クラウド上で一元管理
業務プロセス 経験と勘に依存 標準化・テンプレート化
拠点展開 人材育成に時間を要する 短期間で横展開が可能
経営判断 定性的・後追い リアルタイムデータに基づく意思決定

象徴的な事例が、訪問看護を展開するソフィアメディです。同社はSalesforceを活用し、顧客接点や活動データを可視化することで、従来は拠点長の裁量に依存していた運営を標準化しました。その結果、4拠点同時開設というスピード展開を実現しています。これは、DXが単なるIT刷新ではなく、拠点複製モデルの確立であることを示しています。

さらに重要なのは、データが「次の成長の原資」になる点です。活動履歴や顧客属性が蓄積されることで、サービス改善や新サービス開発へのフィードバックループが生まれます。将来的にはAppExchangeを通じたアプリ化や外部連携も視野に入り、単一事業からプラットフォーム型モデルへの進化も可能になります。

一方で、PwCの分析が指摘するように、DXの失敗要因は技術ではなく設計思想にあります。入力負荷が高く現場に定着しない、ROIが不明確といった問題は、スケーリング戦略の不在から生じます。重要なのは、現場の使いやすさを最優先に設計し、データ活用までを前提にしたプロセス再設計を行うことです。

サービス業のDXは、コスト削減の取り組みではありません。品質を保ったまま拡大できる構造を作ることこそが本質です。Salesforceのようなクラウド基盤を活用することで、地理的制約を超えた人材活用や、標準化されたオペレーションの横展開が可能になります。スケーリングを前提としたDX設計こそが、新規事業を持続的成長へ導く鍵になります。

新規事業モデル③ 業界特化型ソリューションとコンポーザブル戦略

業界特化型ソリューションは、単なるCRM導入支援とは一線を画します。特定業界の業務構造・規制・商習慣を深く理解し、それを前提にSalesforceを再設計することで、価格競争に陥らない高付加価値モデルを構築できます。

IDCの調査によれば、日本におけるSalesforceパートナーエコシステムは本体ビジネスの5倍規模に達し、2026年には6.5倍に拡大する見込みです。これは汎用導入よりも、周辺の専門サービス領域にこそ成長余地があることを示唆しています。

業界知見 × Salesforce標準機能 × エコシステム製品の組み合わせが、持続的な差別化の源泉になります。

代表例がJSOLのヘルスケア領域における取り組みです。同社は「Salesforce Japan Partner Award 2024 Industry of the Year<Healthcare & Life Science>」を受賞しており、医療・ライフサイエンス分野での専門性が評価されています。

注目すべきは、単なるSFA構築ではなく、医療機器やヘルスケアサービスのサブスクリプション化という業界トレンドを捉え、サブスクリプション管理アプリケーションなどを組み合わせている点です。売り切りモデルから継続課金モデルへの移行に伴い、契約更新、請求、保守履歴管理といった複雑な業務を統合的に設計しています。

観点 汎用CRM導入 業界特化型ソリューション
設計思想 標準機能中心 業界業務を前提に再設計
付加価値 業務効率化 ビジネスモデル転換支援
競争優位 価格・スピード 専門性・実装難易度

ここで重要になるのがコンポーザブル戦略です。すべてを自社開発するのではなく、AppExchange上の既存アプリケーションや外部システム連携を前提に、モジュールを組み合わせて最適解を構築します。

コンポーザブルの本質は「柔軟性」だけではありません。市場変化に応じて機能を差し替えられる設計思想そのものが、事業の持続可能性を高めます。たとえばサブスク管理、データ統合、AI活用といった領域を段階的に拡張することで、顧客とともに成長するロードマップを描けます。

新規事業開発の視点では、まず業界の構造変化を特定し、その変化を支える業務機能を分解します。そしてSalesforce標準機能、エコシステム製品、自社独自ロジックをどう組み合わせるかを設計します。この「設計力」こそが、業界特化型ソリューションとコンポーザブル戦略の中核です。

結果として、顧客の業務に深く入り込みながらも、技術的には拡張可能な構造を保てます。これにより、単発の導入案件ではなく、長期的な共創パートナーとしてのポジションを確立できます。

成功事例分析:テラスカイ「mitoco」に学ぶプラットフォーム共生型アプローチ

テラスカイの「mitoco」は、Salesforce専業SIとして蓄積してきた知見をプロダクト化した代表例です。単なる周辺ツール開発ではなく、Salesforceプラットフォーム上で完結するグループウェアとして設計することで、プラットフォームと競合せず、むしろ価値を増幅させる「共生型アプローチ」を体現しています。

IDCの「Salesforce Economy Japan」によれば、日本におけるパートナーエコシステムの市場規模はSalesforce本体の5倍、2026年には6.5倍に拡大すると予測されています。mitocoはまさに、この拡大する周辺市場を捉えたプロダクトです。

観点 従来の分断環境 mitoco導入後
情報管理 CRMとグループウェアが別管理 Salesforce上で一元化
業務入力 スケジュールと案件の二重入力 顧客情報と予定が連動
セキュリティ 各ツールごとに個別評価 Salesforce基盤の統制を継承

多くの企業では、SFA/CRMとグループウェアを併用することで情報が分断され、営業担当者が同じ内容を複数回入力する非効率が生じていました。mitocoはカレンダー、掲示板、ワークフローなどをSalesforceとネイティブに統合し、この摩擦コストを解消しました。「顧客データを中心に社内コミュニケーションを再設計する」という発想転換こそが、共生型の本質です。

特筆すべきは、東京海上日動火災保険のような大企業への導入実績です。金融機関レベルの厳格なセキュリティ要件をクリアできた背景には、ISO認証や堅牢なデータセンター運用など、Salesforce基盤の信頼性があります。新規事業が単独で同水準の基盤を構築するには莫大な投資と時間が必要ですが、OEMモデルを採用することで、立ち上げ初期からエンタープライズグレードの信用を獲得できるのです。

さらに、製造業のキトーなど業界を横断した導入事例は、Salesforce利用企業全体をTAMとできる構造を示しています。これは単一業界特化型SaaSとは異なる拡張性です。Salesforceという共通基盤に乗ることで、営業チャネルも顧客セグメントも広がります。

mitocoの戦略から学べるのは、プラットフォームを「置き換える」のではなく「補完し深化させる」設計思想です。プラットフォームの標準機能を侵食せず、ユーザーの未充足ニーズに集中する。このポジショニングが、エコシステム内での摩擦を最小化し、持続的成長を可能にしています。

新規事業開発において重要なのは、自社の強みをどのレイヤーで発揮するかを見極めることです。インフラやセキュリティはSalesforceに委ね、業務知見やユーザー体験設計に経営資源を集中させる。mitocoは、その戦略的分業の成功例といえます。

成功事例分析:ソフィアメディに見る地域包括ケア×DXの実装

ソフィアメディは、訪問看護という労働集約型サービスを、Salesforceを基盤に再設計することでスケール可能な事業モデルへと進化させました。単なる業務効率化ではなく、地域包括ケアのハブ機能をデータで実装した点に本質的な価値があります。

同社は在宅医療ニーズの高まりを背景に、顧客接点データや訪問記録をSalesforce上で可視化。従来は各ステーション管理者の経験や勘に依存していた運営を標準化し、「4拠点同時開設」を実現しました。これは属人的サービスの“産業化”を意味します。

地域包括ケアを理念で終わらせず、データ基盤で再現可能なオペレーションへ落とし込んだことが最大の成功要因です。

地域包括ケアでは、医師、ケアマネジャー、薬剤師、家族など多職種連携が不可欠です。情報分断が起きれば、患者体験も医療の質も低下します。Salesforceを共通基盤とすることで、ステークホルダー間の情報共有を円滑化し、訪問状況やケア内容をリアルタイムに近い形で把握できる体制を構築しました。

従来型 DX実装後
管理者の経験依存 データに基づく拠点運営
拠点ごとの運営ばらつき 標準化された業務プロセス
情報共有は個別連絡中心 プラットフォーム上で一元管理

特筆すべきは、DXを“本部管理の強化”に使うのではなく、現場起点で設計している点です。モバイル活用を前提に、看護師が無理なく入力できる仕組みを整え、データ入力負荷を抑制。その結果、活動データが蓄積され、経営判断や拠点展開戦略に還流するループが生まれました。

Salesforceの事例紹介でも触れられている通り、同社は将来的にAppExchangeアプリ化などの展開可能性も視野に入れています。これは、単なる利用企業から、地域医療ノウハウを外部化できるプラットフォームプレイヤーへの進化を示唆します。

新規事業開発の観点で重要なのは、社会課題のど真ん中にある産業ほど、標準化とデータ化の余地が大きいという事実です。ソフィアメディの事例は、DXとはシステム導入ではなく、「拠点展開可能なオペレーティングモデルを設計すること」であると教えてくれます。

地域包括ケア×DXは理想論ではありません。適切なプラットフォーム選定と現場実装力があれば、社会インフラそのものをスケール可能なビジネスへ転換できることを、この事例は具体的に示しています。

成功事例分析:JSOLのヘルスケア特化戦略とサブスク化対応

JSOLが「Salesforce Japan Partner Award 2024 Industry of the Year <Healthcare & Life Science>」を受賞した背景には、単なる導入件数の多さではなく、ヘルスケア業界の構造変化を的確に捉えた戦略設計があります。医療・ライフサイエンス領域では、医療機器やデジタルヘルスサービスの提供形態が「売り切り型」から「継続課金型」へと移行しつつあり、ビジネスモデル自体の再設計が求められています。

特に注目すべきは、サブスクリプション化に伴う業務複雑性への対応です。従来の一括販売モデルと比較すると、契約・請求・更新管理の難易度は飛躍的に高まります。

項目 売り切り型 サブスクリプション型
収益認識 一括計上 期間按分
契約管理 単発契約 更新・変更・解約管理が必要
請求形態 固定金額 利用量・プラン別など多様

JSOLはこの変化に対し、Salesforceを中核にサブスクリプション管理ソリューション「ソアスク」などを組み合わせることで、見積から契約、請求、更新までを一気通貫で設計しています。単なるCRM導入ではなく、収益モデル転換を支える基盤構築まで踏み込んでいる点が評価されています。

業界トレンドを深く理解し、Salesforce標準機能とエコシステム製品を組み合わせて“ビジネスモデル変革”まで支援していることが、JSOLの本質的な強みです。

さらにヘルスケア業界は、厳格な法規制やデータ管理要件が存在します。JSOLは医療IT領域での知見を活かし、業界特有の業務フローやコンプライアンス要件を踏まえた設計を行っています。これは単なるSIではなく、業界特化型テンプレートの構築に近いアプローチです。

重要なのは、JSOLが「個別受託開発」に留まらず、再利用可能なアセットとしてノウハウを蓄積している点です。業界特化型の設計思想を持つことで、案件ごとのカスタマイズ比率を抑えながら高付加価値を維持できます。結果として、価格競争に陥りにくいポジションを確立しています。

新規事業開発の観点では、JSOLの事例は明確な示唆を与えます。第一に、業界を絞り込み、その産業構造の変化点を捉えること。第二に、プラットフォーム上の既存ソリューションを組み合わせる「コンポーザブル」な発想を持つこと。第三に、導入支援を超えて収益モデル転換まで踏み込むことです。

Salesforceを“導入する対象”ではなく、“業界変革の基盤”として再定義できるかどうか。JSOLの成功は、その視座の高さにこそ本質があります。

Agentforceが変える業務設計──エージェント型AI時代の新規事業機会

Agentforceの登場は、単なるAI機能の追加ではありません。業務そのものを再設計する前提を変える技術転換です。従来のCRMが「人の入力と判断」を中心に設計されていたのに対し、Agentforceは自律的に計画し、実行するAIエージェントを業務プロセスに組み込むことを前提としています。

Salesforce World Tour Tokyoで発表された最新動向でも示された通り、AgentforceはData Cloudと連携し、企業固有のデータを活用しながら顧客対応や営業支援を実行します。これは「情報を探すAI」から「仕事を進めるAI」への進化です。

エージェント型AI時代の競争優位は、AIを導入することではなく、AIを前提に業務を設計し直せるかどうかで決まります。

業務設計の観点で見ると、変化は明確です。

従来設計 Agentforce時代
担当者が情報収集・入力 AIがデータ統合・要約を実行
人が次アクションを判断 AIが推奨・一部自動実行
KPIは「活動量」中心 KPIは「成果創出速度」へ

たとえばカスタマーサポート領域では、問い合わせ分類、回答案生成、ナレッジ検索をエージェントが担います。人は例外対応や関係構築に集中できます。営業領域では、見込み顧客の優先順位付けやフォロー計画をAIが立案し、担当者は意思決定とクロージングに注力できます。

IDCが示すように、AI搭載クラウドの普及は雇用構造そのものに影響を与えるとされています。重要なのは、人を削減することではなく、人の付加価値を再定義することです。エージェントに任せる業務、人が担う創造的業務を明確に切り分ける設計力が問われます。

ここに新規事業機会があります。第一に、企業ごとの業務フローを分析し、Agentforce前提で再設計するコンサルティング。第二に、特定業界向けのAIエージェントテンプレートの開発です。ヘルスケア、金融、製造など業界特有のプロセスに最適化されたエージェントは、高い参入障壁を持ちます。

さらに、Data Cloudを活用したデータ整備支援も不可欠です。エージェントは良質なデータがあって初めて機能します。データ統合・ガバナンス設計・API連携までを含めた包括サービスは、中長期で継続収益を生むモデルになります。

Agentforceがもたらす本質的な変化は、「システム導入プロジェクト」を「業務再発明プロジェクト」へと進化させる点にあります。新規事業責任者は、AIツール販売ではなく、AI前提の業務設計という上位概念に立つことで、エージェント型AI時代の主導権を握ることができます。

Salesforce Venturesの投資動向とスタートアップ連携戦略

Salesforce Venturesの投資動向は、単なる財務リターンの追求ではなく、Salesforceエコシステム全体の進化を加速させる「戦略的布石」として位置づけられています。特に近年は生成AI領域への集中投資が鮮明であり、エコシステム参加企業にとっては次の技術潮流を見極める重要なシグナルとなっています。

Salesforceの公式発表によれば、同社はAI関連スタートアップ向けファンドを総額10億ドル規模へ拡大し、そのうち8億5,000万ドル超をすでに投資済みです。このスピード感は、AIを中核としたプロダクト再構築を本気で進めていることの裏付けでもあります。

Salesforce Venturesの投資先は、将来的にSalesforce製品へ統合・連携される可能性が高く、事実上の“次世代標準機能の予告リスト”と捉えることができます。

主なAI関連投資先の特徴は以下の通りです。

企業名 領域 戦略的意義
Anthropic 大規模言語モデル 安全性重視のLLMをSalesforce製品へ応用
Cohere 企業向け生成AI エンタープライズ特化型AI基盤の強化
Hugging Face AIオープンプラットフォーム 開発者エコシステムとの接続拡大

この構図から読み取れるのは、Salesforceが「単一モデル依存」ではなく、複数のAIプレイヤーと連携するオープン戦略を採っている点です。これにより顧客企業は用途に応じたAI選択が可能になり、パートナー企業も差別化されたアプリケーションを設計しやすくなります。

さらに重要なのは、Salesforce Venturesが投資先企業に対してFortune 500を含む顧客ネットワークへのアクセス機会を提供していることです。これは単なる資金提供ではなく、Go-To-Marketまで含めた成長支援モデルであり、スタートアップにとっては極めて強力なレバレッジになります。

日本市場においても、この動きは無関係ではありません。グローバルで投資された技術がSalesforce製品群に組み込まれれば、日本企業も同時にその恩恵を受けます。新規事業担当者にとっては、Salesforce Venturesのポートフォリオを定点観測することが、技術トレンドの先読みとアライアンス戦略の設計に直結します。

自社でゼロからAI基盤を構築するのではなく、Salesforce Venturesが目利きした企業と連携する。あるいはその技術を前提にサービス設計を行う。この発想こそが、エコシステム時代における合理的なスタートアップ連携戦略と言えます。

導入失敗の典型パターンとROI最大化のための設計原則

Salesforceを活用した新規事業は高い成長ポテンシャルを持つ一方で、設計を誤るとROIが大きく毀損します。PwCの分析でも、失敗の多くは技術ではなく企画・マネジメントに起因すると指摘されています。ここでは典型的な失敗パターンと、それを回避しROIを最大化するための設計原則を整理します。

失敗パターン 主因 事業への影響
要件の過剰拡張 ERP領域まで包含 開発費高騰・遅延
限定利用での高額導入 ライセンス選定ミス ROI未達・撤退
現場定着の失敗 UX軽視 データ未蓄積

第一に多いのが、CRM基盤であるSalesforceに基幹系機能まで求めてしまうケースです。本来は連携で済む領域まで内包しようとすると、要件定義が肥大化し、スコープ管理が破綻します。「何をやらないか」を決めない設計は、投資回収期間を無限に延ばします。

第二に、利用範囲が限定的であるにもかかわらず上位ライセンスを選択することです。名刺管理や日報入力のみであれば、より軽量な構成やAppExchange製品で代替可能な場合があります。費用対効果の算定を行わずに導入すると、ランニングコストが固定費化し、事業の損益分岐点を押し上げます。

第三に深刻なのがユーザー定着の失敗です。入力項目過多や複雑な画面設計は、現場の抵抗を招きます。データが蓄積されなければ、AI活用や高度分析といった将来価値も生まれません。ROIの源泉はライセンスではなく、活用率です。

ROI最大化の鍵は「段階設計」「役割分担」「活用率KPI」の3点に集約されます。

段階設計とは、小規模スコープで開始し、成果指標を満たした段階で拡張するアプローチです。活用率や入力完了率、商談化率などを先行KPIとして設定し、投資判断をゲート管理します。

役割分担では、CRMとERP、標準機能とカスタム開発の線引きを明確にします。特にApexなど独自技術への依存度を抑え、将来の柔軟性を確保することがロックインリスクの抑制につながります。

そして活用率KPIの徹底です。ログイン率、モバイル利用率、入力所要時間などを定量管理し、UX改善を継続します。Salesforceは強力な基盤ですが、設計思想を誤ればコストセンターになります。逆に、投資仮説を数値で検証し続ける設計ができれば、事業拡張とともにROIは逓増していきます。

ベンダーロックインのリスクとフルスクラッチとの戦略的使い分け

Salesforceを基盤に新規事業を構築する際、避けて通れない論点がベンダーロックインです。プラットフォームの成長性は魅力ですが、そのエコシステムに深く依存することは、将来的な選択肢を狭める可能性もあります。

PwCの分析でも指摘されている通り、導入の成否は技術力よりも戦略設計に左右されます。つまり問題は「使うか否か」ではなく、どこまで依存する設計にするのかという経営判断にあります。

ロックインが生じる主な要因

要因 内容 経営インパクト
独自技術依存 ApexやLightningなど独自仕様への最適化 人材確保・移行コスト増大
課金モデル ユーザー数連動のSaaS課金 組織拡大時の固定費上昇
業務設計依存 ワークフローの全面内包 他基盤への移行困難

たとえばApexなどの独自言語は高い生産性を実現しますが、一般的なJavaやPythonエンジニアとはスキルセットが異なります。その結果、採用市場での競争が激化し、内製化戦略の柔軟性が下がる場合があります。

また、ユーザー数課金モデルはスケール時の予測可能性という利点がある一方、低マージン事業では利益構造を圧迫することもあります。新規事業が急成長した場合ほど、コストカーブの再設計が求められます。

ロックインは「悪」ではなく、「成長スピードとの交換条件」です。

IDCの調査が示すように、日本のSalesforceパートナーエコシステムは本体ビジネスの5倍規模に達し、2026年には6.5倍に拡大すると予測されています。この巨大な市場に即座にアクセスできる点は、フルスクラッチ開発では得がたい戦略的資産です。

一方で、UI/UXそのものが競争優位の源泉となるBtoCサービスや、極めて特殊なアルゴリズムを中核とする事業では、プラットフォーム制約が足かせになることもあります。その場合、初期は時間を要してもフルスクラッチのほうが中長期的な柔軟性を確保できます。

重要なのは二者択一ではなく、コアは自社開発、顧客接点や営業管理はSalesforceといった分離設計です。CRMやワークフローは標準機能を活用し、差別化領域のみを独自開発することで、スピードと自由度の両立が可能になります。

新規事業責任者は、「Time to Marketを最優先する段階」と「利益率と技術主権を高める段階」を意識的に分けるべきです。成長初期はプラットフォームを活用し、市場検証後に再設計する。この段階的アプローチこそが、ロックインリスクを制御しながらスケールする現実的な戦略といえます。

Salesforceを“OS”として活用するための実践アクションプラン

Salesforceを“OS”として活用するとは、単なる業務ツール導入ではなく、事業そのものをプラットフォーム上に設計するという意思決定です。IDCの調査によれば、日本におけるSalesforceパートナーエコシステムは本体ビジネスの5倍規模に達し、2026年には6.5倍へ拡大すると予測されています。この巨大な周辺市場を前提に、どのレイヤーで価値を取るかを明確にすることが第一歩です。

重要なのは「自社は何を作らないか」を決めることです。インフラ、セキュリティ、認証、スケーラビリティはSalesforceに委ね、自社は顧客体験や業界特化ロジックに集中します。テラスカイのmitocoが示したように、エンタープライズ水準の信頼性を前提にプロダクト開発できる点は、Time to Marketを大幅に短縮します。

実践アクションの設計フレーム

ステップ 具体アクション 意思決定の観点
①市場定義 Salesforce利用企業の業界・規模を特定 既存CRM投資との親和性
②価値設計 標準機能で不足する業務を特定 ニッチトップ戦略
③構築方針 OEM/AppExchange公開を選択 拡張性と収益モデル
④拡張戦略 Data CloudやAgentforce連携を検討 AI時代の競争優位

特に②の段階では、「CRMはあるが業界特有業務が分断されている領域」を探します。JSOLがヘルスケア領域でサブスクリプション管理を組み合わせたように、業界トレンドと組み合わせることで付加価値が生まれます。

さらに、AI時代を前提に設計することが欠かせません。Salesforce World Tour Tokyoで発表されたAgentforceの方向性が示す通り、今後はAIエージェントが業務を自律実行する前提になります。初期段階からAPI公開やデータ構造を整備し、将来的にエージェントが活用できる設計にしておくことが、長期競争力を左右します。

短期はスピード、長期は拡張性。この二軸で設計することが“OS活用”の核心です。

最後に、人材戦略も同時に設計します。Trailheadを活用した育成により、内製化比率を段階的に高めます。IDCが示すように、デジタルスキルを活用した雇用創出は拡大傾向にあります。外部パートナー依存から始め、徐々に自社アセットへ転換するロードマップを描くことで、ロックインリスクをコントロールしながら成長できます。

SalesforceをOSと捉える企業は、ツール導入企業ではなく、エコシステムの一部として価値を創る企業へ進化します。その視点転換こそが、実践アクションの出発点です。

参考文献