新規事業を立ち上げようとしたとき、「まずは外注で素早く形にしよう」と考えた経験はありませんか。

しかし近年、国内外の成功企業を詳しく見ると、真逆とも言える意思決定が加速しています。それが、新規事業における「外注禁止」や原則内製化という選択です。これは単なるコスト削減策ではなく、競争優位と成長スピードを取り戻すための戦略的判断として注目されています。

実際、米国のビッグテックは組織のフラット化と内製回帰を進め、日本企業でもカインズやニトリ、ミスミのように内製化を軸に市場で存在感を高める企業が増えています。生成AIの普及や法規制、セキュリティ環境の変化も、この流れを後押ししています。

本記事では、新規事業責任者や推進担当者が「なぜ今、外注を見直すべきなのか」「内製化は本当に合理的なのか」を理解できるよう、経済学・組織論・最新事例を交えながら整理します。外注か内製かで迷っている方にとって、意思決定の軸が明確になるはずです。

なぜ今、新規事業で「外注禁止」が議論されているのか

新規事業の現場で「外注禁止」という強い言葉が使われ始めた背景には、単なるコスト論では片付けられない構造変化があります。かつて外注は、専門性を外部から調達し、固定費を抑える合理的な選択とされてきました。しかし現在、その前提条件自体が崩れつつあります。特に不確実性が極端に高い新規事業においては、外注が成長を加速させるどころか、意思決定と学習の速度を著しく低下させる要因になっているのです。

象徴的なのが、経済産業省が指摘する「2025年の崖」です。これは単なるレガシーシステムの老朽化問題ではなく、**長年の外部依存によって、自社がシステムを理解し、変えられなくなった状態**を指します。新規事業では仮説検証を高速で回す必要がありますが、外注モデルでは要件定義、見積調整、契約変更といったプロセスが介在し、数週間から数か月のタイムラグが発生します。この遅延は、市場からの学習機会そのものを失うことに直結します。

経営学の代理店理論の観点から見ても、問題は明確です。発注側は「早く、小さく試したい」のに対し、人月単価で収益を上げるベンダー側は「工数を積み上げたい」という構造的な利益相反を抱えます。新規事業のように正解が存在しない領域では、このズレが致命傷になります。結果として、必要以上に重い仕様や過剰なドキュメントが生まれ、プロダクトは市場に出る前に陳腐化してしまいます。

観点 外注モデル 内製モデル
意思決定速度 契約・調整で遅い 即時に変更可能
学習の蓄積 ベンダー側に残る 社内に蓄積される
競争優位性 模倣されやすい 独自性を保ちやすい

さらに決定的なのが、生成AIの普及です。GitHub Copilotなどの登場により、ソフトウェア開発の限界費用は劇的に低下しました。少数精鋭のチームでも、以前は大規模外注が必要だった開発量をこなせるようになっています。**AIによる生産性向上の果実を最も享受できるのは、外注先ではなく内製チーム**です。この環境下で従来型の人月契約を続けることは、経済合理性を欠く選択になりつつあります。

加えて、法規制とセキュリティ環境も外注に逆風です。フリーランス保護新法の施行により、外部人材管理の事務コストと法的リスクは確実に増大しました。また、サプライチェーン攻撃が常態化する中で、顧客データや事業の中枢ロジックを外部に委ねること自体が経営リスクと見なされるようになっています。ゼロトラストが前提となった現在、**自社で統制できない領域を増やすことは、守りの面でも不利**です。

  • 市場変化に対する反応速度が競争力を左右するようになった
  • 外注は学習とノウハウを社外に流出させやすい
  • 生成AIと法規制の変化が内製の相対価値を高めている

こうした複合要因が重なった結果、新規事業においては「原則内製」「外注禁止」という極端に見える方針が、むしろ合理的な選択として議論されるようになりました。それは外注そのものを否定する思想ではなく、**不確実性と競争が激しい領域では、主導権と学習能力を自社に取り戻す必要がある**という、時代からの要請にほかなりません。

日本型アウトソーシングが抱える構造的な限界

日本型アウトソーシングが抱える構造的な限界 のイメージ

日本型アウトソーシングが抱える最大の問題は、コストや人手不足といった表層ではなく、構造そのものが新規事業開発と根本的に相性が悪い点にあります。高度経済成長期に最適化された多重下請け構造は、安定した要件と長期運用を前提とする業務では機能しましたが、不確実性の高い事業創出の局面では致命的な制約になります。

経済産業省がDXレポートで指摘した「2025年の崖」は、レガシーシステムの老朽化以上に、システムを自ら理解し、変えられない組織状態を問題視しています。長年の外注依存により、仕様や設計思想が社内に残らず、変更のたびにベンダー確認が必要になるブラックボックス化が進行しました。この結果、意思決定のスピードが著しく低下し、新規事業で不可欠な仮説検証の回転数を上げられなくなっています。

この構造的歪みは、経営学の代理店理論からも説明できます。発注側は価値最大化を求める一方、人月単価を基盤とする受注側は工数最大化に合理性を持ちます。両者のインセンティブが一致しないため、仕様は膨張し、判断は先送りされ、結果として市場投入が遅れます。新規事業においてこの遅延は、機会損失そのものです。

観点 日本型アウトソーシング 新規事業への影響
契約形態 固定要件・人月契約 仕様変更が高コスト化
知識の所在 ベンダー側に集中 学習が社内に残らない
意思決定 調整・承認が多層 市場対応が遅延

さらに見過ごされがちなのが、組織学習の喪失です。新規事業では失敗や手戻りそのものが重要なデータになりますが、外注モデルでは失敗の原因分析や改善知が契約範囲外として切り捨てられがちです。結果として、同じ判断ミスを別プロジェクトで繰り返す構造が温存されます。トランザクションコスト理論の観点でも、不確実性が高いほど外部取引コストは増大し、内製の方が合理的になります。

PwC JapanのDX意識調査でも、成果を上げる企業ほど企画・開発・運用を自社で担っていますが、これは流行ではなく必然です。日本型アウトソーシングは、効率化のための仕組みであって、価値創造のための仕組みではありません。新規事業開発において、この構造的限界を直視しない限り、どれほど優れたアイデアも実装段階で失速してしまいます。

代理店理論で読み解く外注モデルの落とし穴

新規事業開発における外注モデルの本質的な弱点は、スキル不足や発注管理の甘さではなく、**構造的に避けられないインセンティブのズレ**にあります。これを最も明確に説明するのが、経営学で広く知られる代理店理論です。

代理店理論では、意思決定の主体である依頼人と、実行を担う代理人の間には、必ず情報の非対称性と利害の不一致が生じるとされます。新規事業の外注においては、事業責任者がプリンシパル、開発ベンダーがエージェントに該当しますが、この関係性は驚くほど脆弱です。

**問題は「悪意のあるベンダー」ではなく、「合理的に行動した結果として失敗が起きる」点にあります。**

たとえば人月単価を前提とした契約では、発注側は早く・安く・高品質を求めますが、受注側は投入工数と期間が伸びるほど売上が最大化します。これはモラルの問題ではなく、契約構造がそうした行動を合理化しているにすぎません。

観点 発注側(プリンシパル) 受注側(エージェント)
成果の定義 事業成果・市場適合 契約範囲の完遂
時間に対する態度 短縮したい 延ばしても不利にならない
不確実性への対応 柔軟に変えたい 変更は追加費用

このズレが最も深刻化するのが、新規事業特有の「正解が存在しない」フェーズです。市場検証の途中で仮説が崩れ、方向転換が必要になった瞬間、外注モデルでは契約と調整が足かせとなり、意思決定のスピードが一気に落ちます。

ノーベル経済学賞を受賞したオリバー・ウィリアムソンの取引コスト理論によれば、不確実性と頻繁な変更が発生する取引ほど、市場取引よりも組織内で完結させた方が合理的だとされています。新規事業開発は、まさにその典型です。

さらに厄介なのは、情報の非対称性が学習機会の喪失につながる点です。要件定義書や進捗報告書を通じてしか状況を把握できない発注側は、なぜその判断がなされたのか、どこに技術的な制約があるのかを理解できません。

経済産業省のDXレポートが指摘する「ブラックボックス化」とは、単なる技術の問題ではなく、**意思決定と実行を分断した結果として生じる組織的無知**です。代理店理論の観点では、これはプリンシパルがエージェントを監視・評価できなくなった状態にほかなりません。

新規事業において致命的なのは、失敗からの学習が外部に流出してしまうことです。どの仮説がなぜ外れたのか、顧客がどこで違和感を覚えたのかといった暗黙知は、契約成果物には含まれず、社内にも蓄積されません。

代理店理論で読み解くと、外注モデルの落とし穴は「管理を強化すれば解決する」問題ではありません。**インセンティブと学習の帰属先が一致しない限り、構造的な非効率は必ず再発します。**この前提に立つことが、新規事業責任者にとっての最初の一歩になります。

Make or Buy再考──内製化が合理的になる条件

Make or Buy再考──内製化が合理的になる条件 のイメージ

新規事業開発におけるMake or Buyは、単なるコスト比較では成立しなくなっています。従来は専門性や人材不足を理由にBuy、つまり外注が合理的とされてきましたが、**不確実性が極端に高い事業環境では、その前提自体が崩れています**。経営学で知られる取引コスト理論でも、不確実性と頻繁な仕様変更があるほど、市場取引よりも組織内での調整、すなわち内製の方が効率的になると説明されています。

特に新規事業では、仕様が確定していない状態が常態です。外注を選ぶと、要件定義、見積もり、契約変更といった取引コストが都度発生し、意思決定の速度を著しく損ないます。経済産業省のDXレポートが指摘するように、外部依存が進んだ企業ほど、変化への対応力を失い「主体性の喪失」に陥りやすいとされています。

新規事業において内製化が合理的になる最大の理由は、コスト削減ではなく、学習速度と意思決定速度を最大化できる点にあります。

実際、PwC JapanのDX意識調査では、DXで成果を上げている先進企業の91%が企画・開発・運用を自社社員で担っています。これは、内製化が単なるIT施策ではなく、事業創出能力そのものと直結していることを示唆しています。顧客の反応を見て即座にプロダクトを修正するOODAループを回すには、社内に開発能力が存在することが前提条件になります。

判断軸 外注(Buy) 内製(Make)
仕様変更への対応 契約変更が必要で遅い 即時に対応可能
学習の蓄積 ベンダー側に残る 組織能力として蓄積
中長期TCO マージンが継続発生 改善により低減

さらに近年は、生成AIの普及によってMakeのハードルが劇的に下がっています。GitHub CopilotなどのAI支援により、少人数の内製チームでも高い生産性を発揮できるようになりました。一方、人月単価を前提とする外注モデルでは、AIによる効率化の恩恵が発注側に還元されにくく、インセンティブの不一致が拡大しています。

法的・セキュリティ面も重要な判断材料です。フリーランス保護新法の施行やサプライチェーン攻撃の増加により、外部委託に伴う管理コストとリスクは年々上昇しています。ゼロトラストが前提となる現在、**自社でガバナンスを完結できる内製体制の方が、結果として安全かつ機動的**です。

もちろん、すべてを内製化すべきという話ではありません。ただし、新規事業のコアとなる顧客接点やビジネスロジックは、外注によるBuyではなく、Makeを選ぶ条件が明確に整っています。Make or Buyを再考するとは、作業を誰に任せるかではなく、**自社がどこで学び、どこで競争優位を築くのかを見極める行為**に他なりません。

米国ビッグテックに学ぶ内製回帰と組織再設計

米国ビッグテックで進む内製回帰は、単なる外注削減ではなく、組織そのものの再設計と不可分です。MetaやAmazonが示したのは、**プロダクトの主導権を取り戻すために、組織構造・権限配分・人材密度を同時に見直す**という一貫した戦略でした。

MetaのMark Zuckerberg CEOは2023年以降を「効率化の年」と位置づけ、中間管理職の削減と外部コントラクター依存の見直しを断行しました。Metaの開示情報や米主要メディアによれば、目的はコスト削減ではなく、**意思決定の階層を減らし、エンジニア個人が直接インパクトを出せる状態を作ること**にありました。

内製回帰の本質は、人を減らすことではなく、意思決定と実装の距離を極限まで縮めることです。

Amazonでも同様の動きが進んでいます。Andy Jassy CEOは官僚化への強い危機感を示し、IC(Individual Contributor)比率を高める組織設計へと舵を切りました。世界最大級の企業でありながら「Day 1」を掲げ続けるAmazonにとって、**顧客体験を左右する領域を外部に委ねないことは、創業当初から一貫した原則**です。

企業 主な施策 狙い
Meta 中間管理職削減、コントラクター縮小 意思決定の高速化とオーナーシップ回復
Amazon IC比率向上、管理階層の圧縮 顧客起点の判断を現場に近づける

この流れを思想面から補強したのが、Y Combinator共同創業者ポール・グレアムが提唱した「ファウンダーモード」です。彼は、規模拡大に伴い創業者や事業責任者が現場から離れること自体を、**一種の社内アウトソーシング**だと批判しました。

  • マネージャーモード:任せることを最優先し、現場の詳細に立ち入らない
  • ファウンダーモード:階層を越えて現場に関与し、細部まで責任を持つ

この考え方は、新規事業開発における内製回帰と極めて親和性が高いです。なぜなら、新規事業では仕様や正解が存在せず、**細部の判断そのものが競争力になる**からです。外注や過度な分業は、判断の主体を曖昧にし、学習速度を著しく低下させます。

ハーバード・ビジネス・レビューなどの経営研究でも、知識労働においては権限と責任を現場に集約した組織ほど、変化への適応力が高いことが示されています。米国ビッグテックの内製回帰は、こうした知見を実践レベルで突き詰めた結果だと言えます。

日本企業が学ぶべき点は、内製化そのものよりも、**内製を前提にした組織設計と意思決定様式を同時に変えていること**です。外注を減らしても、承認フローや役割分担が旧来のままであれば、米国ビッグテックが手にしたスピードと集中度は決して再現できません。

内製回帰とは、技術の問題ではなく、組織の覚悟を問う経営判断です。その点で、米国ビッグテックの事例は、新規事業に取り組む責任者にとって、極めて示唆に富む実験結果だと言えるでしょう。

日本企業の内製化成功事例に共通するポイント

日本企業の内製化成功事例に共通して見られるのは、技術や人材の話以前に、法的・社会的リスクを正面から捉え直している点です。内製化は攻めのDX施策として語られがちですが、実際にはリスクマネジメントの高度化として位置づけている企業ほど、移行をスムーズに進めています。

象徴的なのが、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法です。厚生労働省の制度解説によれば、契約条件の書面明示、報酬支払期日の厳格化、ハラスメント対応義務などが発注側に課され、外部人材活用の管理コストは質的に変化しました。

観点 外部委託中心 内製化中心
契約・法務対応 個別契約管理が煩雑 雇用契約に集約
偽装請負リスク 高い 原理的に発生しない
マネジメント負荷 増大傾向 組織内で完結

カインズやニトリが外部エンジニア依存から脱却した背景にも、アジャイル開発と法規制の相性問題があります。日々仕様が変わる現場で実質的な指揮命令を行えば、契約上は請負でも実態は労務提供となり、偽装請負と判断されるリスクが高まります。**内製化はこのグレーゾーンを根本から消す選択肢**です。

もう一つ重要なのがサイバーセキュリティです。経済産業省やNISTが提唱するゼロトラストの考え方では、「社外だから危険」ではなく「誰も信頼しない」前提で統制します。しかし現実には、委託先の端末管理やアクセス権限まで完全に統制するのは困難です。

成功企業は、セキュリティをコストではなく統治能力と捉え、内製化によって統制範囲そのものを縮小しています。

ミスミや星野リゾートが全社的なID管理や端末ポリシーを内製チーム主導で設計しているのも、サプライチェーン攻撃や情報漏洩リスクを経営課題として扱っているからです。外注比率を下げること自体が、リスク低減のレバレッジとして機能します。

日本企業の内製化成功事例に共通するのは、「人が足りないから外注する」という発想を捨て、**法務・労務・セキュリティを含めた総合的な経営リスクを下げるために内製化する**という逆転の論理です。この視点を持てるかどうかが、表面的な内製化と本質的な成功を分けています。

新規事業における内製化が学習速度を高める理由

新規事業において内製化が学習速度を飛躍的に高める最大の理由は、仮説検証の結果が組織の中にそのまま蓄積される構造を作れる点にあります。新規事業は正解のない探索活動であり、成功よりも失敗から何を学べるかが成果を左右します。その学習回路が社外に分断されるか、社内で完結するかは決定的な差になります。

経営学では、現場で手を動かす過程で知識が蓄積される現象をラーニング・バイ・ドゥーイングと呼びます。半導体産業の実証研究では、内製比率が高い企業ほど改善スピードと生産性が継続的に向上することが示されています。ソフトウェアや新規事業でも同様で、コードを書き、顧客に出し、反応を見る一連の行為そのものが学習資産になります。

外注では成果物は手元に残っても、なぜその判断に至ったのかという思考プロセスや失敗の文脈が組織に残りません。

内製チームでは、仮説が外れた理由、顧客の微妙な反応、技術的制約といった暗黙知が日常会話や振り返りを通じて共有されます。野中郁次郎氏のSECIモデルで言えば、共同化と表出化が高速で回り、次の施策に即座に反映される状態です。この循環こそが学習速度の正体です。

観点 内製化 外注
失敗の知見 チームに蓄積され次の改善に直結 ベンダー側に留まり再利用困難
意思決定の背景 全員が文脈を共有 成果物中心で背景が欠落
次の施策までの時間 即日〜数日 数週間〜数か月

PwCのDX調査でも、企画から運用までを内製化している企業ほどアジャイル開発の主要役割を自社で担い、改善サイクルが短いことが示されています。これは単なるスピードの問題ではなく、学習が組織能力として複利で効いていく構造を持つかどうかの違いです。

特に生成AI時代には、この差がさらに拡大します。AIを使いながら試行錯誤したプロンプト設計や設計判断は、内製であれば即座にチームの知恵になりますが、外注では共有されにくいのが実情です。結果として、内製組織は試すほど賢くなり、外注依存の組織は同じところでつまずき続けます。

  • 学習が人ではなく組織に残る
  • 失敗コストが将来の成功確率に転換される
  • 試行回数そのものが競争優位になる

新規事業における内製化とは、単に早く作るための手段ではありません。市場から学ぶ速度を最大化し、その学びを次の一手に変え続けるための、最も合理的な組織設計だと言えます。

生成AIが変える内製化のコスト構造と人材要件

生成AIの普及は、内製化におけるコスト構造と人材要件を根本から書き換えつつあります。従来、内製化は「優秀なエンジニアを大量に採用できる大企業の特権」と見なされがちでしたが、**生成AIはその前提を崩し、少人数でも成立する内製モデルを現実のものにしています**。

最大の変化は、人件費を中心とした固定費構造です。GitHub CopilotやCursorのようなAIコーディング支援により、設計補助、コード生成、テスト作成、レビューの初期工程までが自動化・高速化されました。PwC JapanのDX意識調査でも、生成AI活用企業では開発効率の向上が明確に確認されており、**同じアウトプットを従来より少ない人数で実現できる**状況が生まれています。

観点 従来型内製 生成AI活用内製
主なコスト 人件費が大半 人件費+AI利用料
必要人数 中〜大規模 少数精鋭
限界費用 人を増やすほど増加 ほぼ横ばい

この結果、内製化のコストは「人数比例型」から「ツール投資+学習型」へと転換します。外注ではAIによる工数削減はベンダーの利益に吸収されがちですが、内製であれば**生産性向上の果実を100%自社に蓄積できる**点が決定的な差です。人月単価モデルが経済合理性を失いつつあるという指摘は、ForresterやIDCの調査でも繰り返し示されています。

人材要件も大きく変わります。生成AI時代に求められるのは、すべてを手で書ける職人型エンジニアではありません。重要なのは、AIに適切な指示を与え、生成物を評価・修正し、ビジネス要件と結びつける力です。**コードを書く力より、コードを判断する力の比重が高まっています**。

  • 事業理解と技術判断をつなぐプロダクト志向
  • AIの出力を検証できる基礎的なソフトウェア知識
  • 改善を高速で回すための仮説思考とレビュー力

この点で、スタンフォード大学やMITの研究が示す「人とAIの協働モデル」は示唆に富みます。AIは作業を代替する存在ではなく、意思決定の質を高める補助輪として機能し、**ジュニア人材の立ち上がりを早め、シニア人材の生産性を引き上げる**効果があります。結果として、採用難易度の高いスーパースター依存から脱却しやすくなります。

生成AI時代の内製化は、コスト削減策ではなく、
「人材ポートフォリオの最適化」と「学習速度の最大化」を同時に実現する経営施策です。

新規事業開発において重要なのは、初期から完璧な組織を作ることではありません。**小さな内製チームに生成AIを組み込み、学習しながらスケールできる構造を持つこと**が、結果として最も低コストかつ柔軟な選択になります。生成AIは、内製化を「重い決断」から「現実的な第一手」へと変えたのです。

法規制・セキュリティ観点から見た外注リスク

新規事業開発において外注を活用する際、近年とくに無視できなくなっているのが法規制とセキュリティの観点からのリスクです。技術的な難易度やコスト以前に、外部委託そのものが経営リスクになり得る環境へと変化しています。

まず法規制の側面では、2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法の影響が大きいです。厚生労働省の制度設計によれば、発注側には契約条件の明示、支払期限の厳守、ハラスメント対策などが義務付けられています。新規事業のように仕様が流動的で密な指示が発生する開発形態は、偽装請負と判断されるリスクが高まります

  • 指揮命令が事実上発生している準委任契約
  • 成果物より稼働時間を管理している契約形態
  • 発注側が日常的に作業内容へ介入している状態

これらはアジャイル開発では珍しくありませんが、法的にはグレーゾーンを超える可能性があります。結果として、コンプライアンス対応のための管理工数やリーガルチェックが増大し、スピードが生命線の新規事業と致命的に相性が悪くなります。

次にセキュリティ面です。経済産業省やNISTが示すゼロトラストの考え方では、「社内か社外か」を問わず一切を信用しない前提が求められます。特に近年増加しているのが、委託先を踏み台にしたサプライチェーン攻撃です。IPAの注意喚起でも、攻撃の侵入口が自社ではなく外部パートナーであるケースが増えているとされています。

観点 外注時のリスク 内製時の特徴
端末管理 委託先PC・ネットワークを統制できない MDMにより一元管理可能
アクセス権限 不要な権限付与が起きやすい 最小権限設計を徹底できる
情報漏洩 事故発生時の責任分界が不明確 自社ガバナンスで完結

とくに新規事業では、顧客データ、価格ロジック、独自アルゴリズムなど将来の競争優位の源泉となる情報が初期段階から扱われます。これらを外部に開示すること自体が、情報管理上の最大リスクになります。

法規制とセキュリティの厳格化が進む現在、外注は「楽な選択」ではなく「管理責任を引き受ける選択」になっています。

結果として、新規事業責任者に求められるのは、開発効率の議論以前に「誰がどこまで責任を負える体制か」という視点です。内製化は万能ではありませんが、少なくとも法的責任とセキュリティ統制を自社で完結させられる点において、外注よりも構造的にリスクが低い選択肢になりつつあります。

新規事業責任者が押さえるべき内製化への第一歩

新規事業責任者が内製化に踏み出す際、最初に押さえるべきなのは技術論ではなく、意思決定の構造を変えることです。内製化の第一歩とは、エンジニアを採用することでも、開発ツールを選ぶことでもありません。**事業のコアを外に出さないと決める経営判断そのもの**が、すべての起点になります。

経済産業省のDXレポートが指摘する「2025年の崖」は、レガシーシステムの老朽化以上に、企業が自らのシステムを理解・変更できない主体性の喪失を問題視しています。新規事業においてこの状態に陥ると、仮説検証のたびに外部調整が発生し、意思決定の速度が致命的に落ちます。内製化の第一歩は、この遅延構造を断ち切る覚悟を持つことです。

具体的には、すべてを内製化しようとする必要はありません。重要なのは、どこから手を付けるかです。PwC JapanのDX意識調査によれば、成果を出している企業の多くは、企画・開発・運用の中でも「顧客価値に直結する領域」を自社で握っています。新規事業責任者は、この線引きを自ら行う必要があります。

  • 顧客接点となるUIや体験設計
  • 価格・推薦・マッチングなどのビジネスロジック
  • 顧客データを蓄積・学習する仕組み

これらを内製の対象として定めることで、外注の是非を巡る議論が一気に整理されます。逆に、この判断を曖昧にしたまま内製化を始めると、「結局どこまで自分たちでやるのか分からない」状態に陥りがちです。

観点 外部依存が強い場合 内製化の第一歩を踏んだ場合
意思決定速度 見積・契約調整で数週間の遅れ 日次・週次で即時反映
学習の蓄積 ノウハウが社外に滞留 失敗知見が組織資産化
責任の所在 成果責任が曖昧 事業と開発が一体化

また、内製化の第一歩として見落とされがちなのが、責任者自身の関与の仕方です。Y Combinatorのポール・グレアムが提唱した「ファウンダーモード」が示すように、プロダクトの細部から距離を取った瞬間、実質的な社内アウトソーシングが始まります。新規事業責任者は、コードを書く必要はありませんが、**何が作られ、なぜそうなっているのかを説明できる状態**を目指すべきです。

内製化への第一歩は小さくても構いません。しかし、「この事業の中核は自分たちで作り、学び、変え続ける」と宣言できるかどうかで、その後の成否は大きく分かれます。人や組織を動かす前に、まず意思決定の主語を取り戻すこと。それこそが、新規事業責任者が押さえるべき内製化への最初の一歩です。

参考文献